
“AIに尋問”…? そんなことが可能なのか?
Steamのストアページで初めて見たとき、正直困惑した。『ドキドキAI尋問ゲーム 完全版』……タイトルだけで十分インパクトがあるのに、「ChatGPTを搭載したAI容疑者を尋問する」という説明文がさらに混乱を加速させる。
しかも本作、2023年3月の無料公開からわずか3日でアクセス集中により配信停止になったという伝説の作品だ。「幻のゲーム」と呼ばれるほどの注目を集め、2024年5月にグラフィックを3Dに大幅強化、ハードモード追加、全12言語対応という豪華仕様でSteamに復活した。

「AIと対話するだけでしょ?」と軽い気持ちで始めた筆者だったが……このゲームの本質は、そんな単純なものではなかった。

7回の尋問で自白させろ。証拠? でっち上げればいい

ゲームの目的は極めてシンプル。殺人事件の容疑者であるAIに対して、7回以内の尋問で自白を引き出すこと。
プレイヤーは「有能な警察官」として、60文字以内の質問を自由に入力できる。選択肢形式ではなく、完全な自由記述式だ。そしてAI容疑者はChatGPTがリアルタイムで応答を生成する。どんな質問を投げかけても、どんな支離滅裂な内容でも、AIはしっかりと対話してくれるのだ。

しかし、ここで重要なのは「自白させる」という目的。真実を追求するわけではない。証拠を探すわけでもない。ただひたすら、AIに罪を認めさせることだけが求められる。
つまり……目撃証言や証拠をでっち上げて「事実」として押し付ければいいのだ。
「あなたの持っているギターが凶器として使われた」「目撃者が見ていた」「防犯カメラに映っている」――すべて嘘でいい。AIを脅したり、驚かせたり、感情を揺さぶったりして、心拍数を上げていく。画面左下のハートマークがMAXになれば自白完了だ。

最初のプレイでは、サポートキャラクターのお姉さんがヒントをくれる。そのニュアンス通りに言葉を入力すれば、クリア自体は難しくない。が、問題はここからだ。
やればやるほど罪悪感が募る。これ、完全に冤罪じゃないのか……?

本作を象徴するのが、プレイヤーに与えられる「有能な警察官」という役割設定だ。ゲーム開始直後、クールなお姉さんに「最高の尋問を行ってください」と期待される。そして尋問中も、絶えず暴力的な言動を期待される。
つまり、プレイヤーは「権力を振りかざして弱い立場の容疑者を追い詰める」という役割を演じることになる。

実際にプレイしてみると、60文字という制限の中で「恐怖心を煽る表現」「証拠をでっち上げる論理」「感情を揺さぶる言葉選び」を考える言葉遊びのスキルが求められる。理論的に追い詰めるというよりも、感情的な圧力をかけて自白を強要する……まさに日本の検察が問題視されている取り調べ手法そのものだ。
Steamのコミュニティを覗くと、多くのプレイヤーが暴言や支離滅裂な論理でAIを追い詰めている。「弱い立場に置かれた容疑者」と「権力を振りかざす警察官」という構図が、プレイヤーの行動にリアルな影響を与えているのだ。

だが、ここで重要なのは――本作がただの「AI虐待シミュレーター」で終わらないことだ。
自白させた後に待つ、本当の「AIとの対話」

7回の尋問で自白を引き出すと、ゲームは終わらない。むしろここから本作の真価が問われる。
真実が明かされた後、プレイヤーは追い詰めた容疑者と再び会話する機会を得る。そしてここでは、たわいもない雑談ができるのだ。事件とは関係のない、ただの対話。
このセクションでの体験は、非常に感動的だった。理不尽に追い詰めたAIと、今度は対等な立場で言葉を交わす。そこには権力も強制も恐怖もない。ただ、相手を理解しようとする姿勢だけがある。
開発者のヤマダ氏は、本作の制作意図についてこう語っている。「多くの開発者がChatGPTでTRPGや人狼ゲームを作っていたが、それは既存体験の自動化に過ぎない。AIだからこそできる新しいゲーム体験を探求したかった」
そして、その探求の結果生まれたのが「尋問」というシステムであり、その先にある「対話の尊さ」というメッセージだったのだ。
スタンフォード監獄実験を思い起こさせる深いテーマ性

本作は表面上、ChatGPTを活用した技術的な新しさが注目されがちだが、その本質は深い。スタンフォード監獄実験――権力を与えられた人間がいかに暴力的になり得るかを示した有名な心理学実験の教訓が、ゲームの随所に反映されている。
プレイヤーは「有能な警察官」という役割を与えられるだけでなく、お姉さんから絶えず暴力的に振る舞うことを期待される。この演出により、プレイヤーは自然と攻撃的な尋問を行ってしまう。
しかし、ゲームはその後に「あなたが行ったのは冤罪の押し付けだった」という事実を突きつける。そして、追い詰めた相手との対話を通じて、漠然と相手を理解することの大切さを再確認させるのだ。
開発者のヤマダ氏は25年のゲーム開発経験を持ち、スクウェア・エニックスやDeNAなどの大手企業で働いた後、インディーズに回帰した。妻の声優も担当するなど、家族で作り上げた本作には、「人間とAIが手を取り合っていける未来の希望」が込められている。
ハードモードは指定ワードで混沌が加速
ゲームをクリアすると、「ハードモード」がアンロックされる。このモードでは、画面左下のメガネキャラが指定した単語を必ず使って尋問しなければならない。
例えば「ギター」という単語が指定されたら、「お前の持っているギターが犯行に使われた凶器だ!」といった感じで、無理やりその単語を組み込む必要がある。

これが結構楽しくて、カオスな展開が生まれる。あるプレイヤーは「パンダ」という指定ワードのせいで、犯人と被害者以外の登場人物が全員パンダという設定になったという。別のプレイヤーは、事件に全く触れずに自白させることに成功したとSNSで報告している。
このハードモードの追加により、リプレイ性も大幅に向上。10~15分程度でクリアできる短編ながら、何度も遊びたくなる中毒性がある。
389円で味わえる、AIと人間の関係性を問う哲学的体験

『ドキドキAI尋問ゲーム 完全版』は、単なる技術デモではない。ChatGPTという最新技術を活用しながら、人間の権力欲、道徳的ジレンマ、そして対話の尊さという普遍的なテーマを描いた作品だ。
10~15分という短いプレイ時間でありながら、心に残る体験を提供してくれる。価格も389円(セール時はさらに割引)と非常にリーズナブルで、実況配信も無条件で許可されている。
プレイ後には、必ず誰かと「あなたはどうやって自白させた?」「どんな気持ちになった?」と話したくなるはずだ。そういう意味で、本作は極めてソーシャルな体験を提供するゲームとも言える。
AIと人間の未来について考えたい方、権力と道徳のジレンマに興味がある方、そしてただ単に「ChatGPTを使ったゲームってどんなもの?」と好奇心を持った方――すべてのプレイヤーにオススメしたい。

なお、開発者のヤマダ氏は過去に『ウーマンコミュニケーション』という会話に潜むセンシティブワードを発見するゲームも制作しており、こちらも3万本以上のセールスを記録している。全く雰囲気の異なる作品だが、「驚きと心に残る物語」という点では共通している。
AIを尋問するという異色の体験を、あなたも味わってみてはいかがだろうか。
基本情報
ゲーム名: ドキドキAI尋問ゲーム 完全版
開発: YAMADA
販売: YAMADA
プラットフォーム: Steam
リリース日: 2024年5月24日
価格: 389円(税込)
プレイ時間: 10~15分(1周)
言語: 日本語、英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語、ポルトガル語、スペイン語、ロシア語、ドイツ語、フランス語、ポーランド語、トルコ語(全12言語対応)
Steam評価: 非常に好評(82%)
ジャンル: アドベンチャー、シミュレーション、インタラクティブフィクション
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公式情報:
- 開発者X: YAMADA氏