
あのゲームの正式版がついに…!
「元気の元気が無い」とネタにされ続けて18年。首都高バトル民は半ば諦観の境地に達していた。Xbox 360で発売された『首都高バトルX』を最後に、シリーズは沈黙を守り続けていたのだから。
しかし2025年1月23日、元気はいつも通り突然、我々の前に現れた。そして9ヶ月の早期アクセスを経て、2025年9月25日──ついに正式版がリリースされた。
Steam早期アクセス版は初日に最大同接プレイヤー数1万4700人を記録し、1600件以上のレビューで「圧倒的好評」(96%好評)という驚異的な数字を叩き出した。そして正式版は、さらに磨き上げられた形で8,542件のレビューで96%という驚異的な好評価を維持している。「誰も新しいレースゲームに資金を出したがらない」と言われるこの時代に、だ。
封鎖された未来の東京、緻密に再現された首都環状線C1、そして他に類を見ない「SPバトル」システム──。伝説の和製ストリートレーシングゲームが、Unreal Engine 5の力を借りて現代に完全復活した。
精神を削り合う「SPバトル」こそがすべて

『首都高バトル』を語る上で絶対に外せないのが、このゲーム独自の「SPバトル」システムだ。
通常のレースゲームは「相手より速くゴールする」のが目的だが、本作は違う。ドライバーの精神力を数値化した「スピリットポイント(SP)」を削り合い、相手のSPをゼロにすれば勝利となる。つまり、単なるスピード勝負ではなく、相手の心を折ることが目的なのだ。
相手の背後にピタリと張り付いてプレッシャーをかける。アザーカー(一般車両)の間をすり抜けて動揺を誘う。インを突いて無理やり追い越し、精神的な動揺を与える──。こうした「駆け引き」が、レースゲームというジャンルに異質な緊張感をもたらしている。

実際にプレイしてみると、この「精神が削れる様なギリギリのバトル」という公式の説明が決して誇張ではないことがわかる。相手に張り付かれると自分のSPがみるみる減っていき、「ヤバい、離されないと……!」という焦りが生まれる。逆に相手を追い詰めている時の全能感も格別だ。
筆者が特に印象的だったのは、インを無理やり突いて追い越そうとした瞬間、壁に激突してしまい一気にSPが削られた時だ。「速く走ればいい」という単純な思考では勝てない。相手の動きを読み、タイミングを計り、時には我慢も必要──まるで格闘ゲームのような読み合いがそこにはあった。
457人のライバルが待つ完成形

正式版では、早期アクセス版の200人から大幅に増加し、457人もの個性的なライバルが登場する。それぞれが独自の車両と運転スタイルを持ち、パッシング(ヘッドライトを点滅させてバトルを挑む合図)で勝負を仕掛けてくる。
中でも注目なのが「ワンダラー」と呼ばれる隠しライバルたちの存在。特定の車に乗っている時だけ、特定の時間帯だけ、連勝記録を維持している時だけ──条件を満たした時にしか現れない彼らを探し出し、倒すことがメタゲームとして機能している。
海外レビューサイトNGOHQ.comは「ライバルへの個性付けこそが、本作を他のレーシングゲームと決定的に分けるもの」と評価している。AIの対戦相手が単なる障害物ではなく、それぞれが固有の名前、チーム、挑発セリフを持つことで、一つ一つのバトルに意味が生まれるのだ。

Hondaの復活と新章の追加
正式版で最も大きな変化の1つが、Hondaの正式ライセンス復活だ。Tokyo Xtreme Racer 3以降、Hondaは「ストリートレーシングとの関連を避けたい」という理由で不参加だったが、18年ぶりに本シリーズに復帰した。
日産GT-R R35、レクサスLC500、トヨタGRスープラといった人気車種も追加され、総収録車両数は大幅に拡充。さらに元気は「将来のアップデートでフォードやシボレーといった欧米メーカーも追加予定」と発表しており、グローバル展開を視野に入れた展開が期待される。
ストーリーも完結編まで追加され、早期アクセス版の中盤までから、最後まで遊べる完全版へと進化した。

夜の首都高を駆け抜ける、あの感覚

本作の舞台は「封鎖された未来の東京」。設定上は近未来だが、実際の首都環状線C1を忠実に再現したコースは、180km以上にわたって精密に作り込まれている。
複雑に入り組んだカーブ、ダイナミックな高低差、そして夜の首都高特有の雰囲気──。このコースを実在する車両で走る体験は、他のレースゲームでは味わえない独特のものだ。
特に素晴らしいのが、Unreal Engine 5による夜の首都高の表現。ネオンの光が車体に反射し、ヘッドライトが闇を切り裂く。首都高の無機質なコンクリート壁が、UE5のグラフィックスで妙にリアルに映える。

そして驚くべきことに、本作は「UE5なのにポテトPCでも動く」ことで話題になった。最低動作環境がCore i7-7700とGTX 1050Tiという、比較的古めのスペックでも動作するよう最適化されており、「UE5ゲームで初めてまともに動いた」という声も多い。
正式版で見送られた機能、それでも続く開発

ただし、正式版リリースにあたって元気は重要な発表を行った。当初予定されていたリプレイ機能とSteamオンラインランキングが実装見送りとなったのだ。
リプレイ機能については「将来のアップデートで磨き上げて実装する」とコミットしているが、ランキング機能については「チート対策が不十分なため、フェアなプレイ環境を提供できない」として無期限延期となった。
マルチプレイヤー機能も現時点では未実装で、完全にシングルプレイヤー体験に特化している。海外メディアOverTake.ggは「デュエル文化に根差したゲームでマルチプレイがないのは残念」と指摘しつつも、「オフラインのストーリー中心の体験としては、この欠落はそれほど目立たない」と評価している。

価格は早期アクセス版の3,960円から正式版では6,600円(海外では$49.99)に値上げされたが、早期アクセス版を購入したユーザーは無償でアップグレードされる。
元気は「フルリリース後も開発を続ける」と明言しており、新車両、新カスタマイズパーツ、追加ストーリーなどが今後実装予定だ。
ハンコン対応で没入感が桁違いに

本作の大きな魅力の1つが、ハンドル型コントローラー(ハンコン)への対応だ。
Logicool G923、G29、Fanatec CSL DD、Thrustmaster T300RSなど、主要なハンコンのプリセットが用意されており、プラグアンドプレイで即座に楽しめる。フォースフィードバック機能も正式版で実装され、路面の凹凸やタイヤのグリップ感がダイレクトに伝わってくる。
ハンコンでプレイすると、SPバトルの緊張感が段違いに高まる。ステアリングを握る手に汗が滲み、相手に追い詰められると思わず前のめりになる。パッドでも十分楽しめるが、ハンコンを持っているなら絶対に試してほしい。
「首都高を自分の手で走っている」という没入感は、他のどんなレースゲームよりも強烈だ。
18年ぶりの完全復活に涙するファンたち

Steamのレビュー欄を見ると、「お帰り、元気」「18年待った」「完成版、最高」といったコメントが溢れている。正式版リリース後のレビューでは「早期アクセスから大幅に進化した」「ストーリーが完結して満足」という声が多数を占める。
一方で「マルチプレイがないのは残念」「リプレイ機能が欲しかった」という指摘もあるが、全体としては96%という圧倒的な好評価を維持している。
海外レビューサイトSilent’s Blogは「Tokyo Xtreme Racerは雰囲気こそがすべて。NFS Undergroundがチューナー文化を完璧に表現したように、TXRは日本の高速レーサー文化に没入させてくれる」と評価。NGOHQ.comは「これは再発明でも主流向けのゲームでもない。オリジナルを忘れられないものにした全てを忠実に復活させたものだ」と結論づけている。

ある意味、本作は「誰も作らなくなった種類のレースゲーム」だ。グランツーリスモのようなリアル路線でもなく、マリオカートのようなカジュアル路線でもなく、Horizonのようなオープンワールド路線でもない。
首都高という限定された舞台で、精神を削り合い、最速を目指す──。このストイックさと独特の世界観が、18年の時を超えて多くのゲーマーの心を掴み、そして正式版として結実した。

筆者自身も、初めて首都高を走った時の感覚を今でも覚えている。あの夜の首都高特有の雰囲気、SPバトルの緊張感、そして「勝った!」という達成感──。すべてが新鮮で、すべてが刺激的だった。
『首都高バトル』は、単なるノスタルジーで終わらせるには惜しい、現代でも十分に通用する魅力を持ったレースゲームだ。正式版は6,600円(税込)で、今後も継続的なアップデートが予定されている。
「伝説のレースゲームを体験したい」という新規プレイヤーにも、「あの頃の首都高バトルに再会したい」というシリーズファンにも、自信を持っておすすめできる。
夜の首都高で、精神を削り合う戦いが完全な形で帰ってきた──。

基本情報
タイトル: 首都高バトル(Tokyo Xtreme Racer)
開発: 元気株式会社
販売: 元気株式会社
プラットフォーム: Steam (PlayStation 5版は今後予定)
早期アクセス配信日: 2025年1月23日
正式版リリース日: 2025年9月25日
価格: 正式版 6,600円(税込)
言語: 日本語、英語、韓国語、簡体字中国語
プレイ人数: 1人(マルチプレイヤー未実装)
Steam評価: 圧倒的に好評(8,542件中96%が好評)
総ライバル数: 457人
収録車両: 50台以上(Honda復活、今後も追加予定)
コース: 首都環状線C1を含む180km以上
推奨スペック: GPU RTX4060以上(Ultra設定)、SSD推奨
最低スペック: Core i7-7700、GTX 1050Ti(Low設定)
リンク: