イエス・キリストになるゲーム!? 聖書を体験できる一人称シミュレーター『I am Jesus Christ』

イエス・キリストになるゲーム!? 聖書を体験できる一人称シミュレーター『I am Jesus Christ』

更新: 2026年4月15日

「ゲームでイエス・キリストになれるって、一体どういうことだ……?」2026年4月2日、まさにイースターの時期にリリースされた『I am Jesus Christ』は、そんな疑問を見事に形にした作品だった。5人の小規模チームが数年がかりで作り上げた本作は、宗教的な敬意と教育的価値、そしてゲームとしての面白さを両立させようとする、前例のない挑戦なのだ。

聖書の物語を、あなたの手で体験する

本作は、新約聖書に記されたイエス・キリストの生涯を一人称視点で追体験できるシミュレーションゲームだ。開発はSimulaM、パブリッシャーはポーランドのPlayWay S.A.。プレイヤーは洗礼を受ける場面から復活までの道のりを辿り、30以上の奇跡を実際に「行う」ことになる。5,000人へのパンと魚の配給、らい病患者の治癒、嵐の海を鎮める奇跡、盲人の視力回復――聖書に記された象徴的な出来事が、インタラクティブな体験として目の前に展開される。

ゲームは3つの章で構成されており、各章は独立しているが、すべてが一つの物語として繋がっている。プレイヤーはエルサレムからガリラヤまで、聖地の各地を自由に探索できるオープンワールド形式で、ナザレ、エルサレム、ガリラヤ湖、ユダヤの荒野といった場所が丁寧に再現されている。

興味深いのは、ゲーム内に「信仰メーター」と「フォロワー数」というシステムが存在すること。信仰メーターは「聖霊のエネルギー」を表し、奇跡を行うたびに消費される。祈りを捧げることでこのエネルギーを回復できる仕組みだ。また、「神聖な視覚」(Divine Vision)という能力を使えば、隠されたアイテムや相互作用可能なオブジェクトを発見できる。まるでウィッチャーの感知能力のような機能だが、聖書の世界観に落とし込まれている。

奇跡を「パフォーマンス」する楽しさと違和感

ゲームプレイは基本的に探索とクエスト進行、そして奇跡の実行で成り立っている。プレイヤーは60人以上のキャラクターと出会い、12使徒を含む聖書の登場人物たちと交流する。最後の晩餐のような重要な場面も再現され、ストーリー全体を通じて聖書の該当する章節が画面に表示される。

奇跡を実行する際には、簡単なミニゲームやパズル要素が用意されている。例えば、荒野でサタンに誘惑される場面では、蛇を追いかけるミニゲームが登場する(これが意外と難しい)。また、病人を癒す際には特定の場所に近づいて信仰の力を使う必要がある。

しかし、ここに本作最大の矛盾がある。「イエス・キリスト」という、キリスト教において最も神聖な存在を「プレイアブルキャラクター」として操作することは、ゲームメカニクスとして成立するのか? 奇跡を実行してフォロワー数を増やし、アチーブメントを解除する――この構造は、まさに現代のソーシャルゲームやYouTuberの世界観そのものだ。「いいね」を稼ぐインフルエンサーのように奇跡をパフォーマンスする、というメタ構造が、プレイヤーに妙な居心地の悪さを感じさせる。

Steam評価86%の「Very Positive」が示すもの

リリース直後の反応は、開発チームにとって予想以上のものだったに違いない。本作はSteamで「圧倒的に好評」(Very Positive)の評価を獲得し、715件以上のレビューのうち86%が肯定的だ。グッドフライデーには同時接続プレイヤー数が472人に達した。

レビューの多くは、本作の教育的価値と誠実な姿勢を評価している。「カトリックとして育ったが、当時は聖書の勉強が退屈だった。子供の頃にこんなゲームがあれば良かったのに」というレビューや、「物語が本当に心に響く。イエスの物語を実感できる」といった声が目立つ。一方で、「アサシン クリード風のパルクール要素がある」という指摘も複数見られた(聖書にそんな記述があったかは定かではないが……)。

もちろん批判的な意見も存在する。AI生成ボイスの品質が低く、没入感を損ねているという指摘や、ミニゲームが単調で繰り返しが多いという声も。あるレビュアーは「聖職者の聖域でフェンスや樽、屋上を飛び回る『聖なるアクロバット』として走り回るのが一番楽しかった」と皮肉混じりに語っている。

5人チームの情熱と限界

本作の開発元であるSimulaM(後にSpace Boat Studiosとしても知られる)は、わずか5人のチームだ。CEOのMaksym Vysochanskiyは、20年以上前に『シュレック』や『トイ・ストーリー』のようなCGアニメーション映画に感銘を受け、「イエス・キリストについての映画を作りたい」と考えたのが始まりだったと語っている。それがやがてビデオゲームという形に変化し、2019年12月7日にSteamで初めて発表された。

大手スタジオの予算がない中で、開発チームはAIツールをボイスアクティングに活用することを選択した。この判断は賛否両論を呼んだが、チームは「すべてのクリエイティブな決定は私たちが行った。AIは補助的な制作ツールであり、創造的作業の代替ではない」と明言している。

リリース後、開発チームは積極的にパッチを配信している。蛇追跡ミニゲームの難易度調整、最後の晩餐でキャラクターがスタックする不具合の修正、嵐の海の泡の視認性向上など、細かな改善が続けられている。また、ボイスオーバーの改善やマグダラのマリア、片手の萎えた男といった追加コンテンツの制作も進行中だという。

これは冒涜か、それとも敬意か?

本作をプレイしていると、ある問いが頭をよぎる。「イエス・キリストを『プレイ』することは、冒涜ではないのか?」

Steamコミュニティでもこの議論は起きている。あるユーザーは「映画でイエスを演じることが許されるなら、ゲームも同じだ」と主張し、別のユーザーは「ゲームは現実ではない。これがあなたの信仰や行動に聖書的でない影響を与えるなら、それは罪かもしれない。しかし、ゲームプレイのループを楽しむだけなら問題ない」と述べている。

開発チームの意図は明確だ。本作は聖書の物語を「ユニークで魅力的な方法で広める」ことを目指している。教会の説教や日曜学校では届かない層に、インタラクティブな体験を通じてキリスト教の基礎を伝える――それが彼らの目標だ。Steamストアページには「キリスト教信仰の基礎を、イエスの生涯とメッセージに触発されたインタラクティブな旅を通じて探求する」と記されている。

実際、多くのプレイヤーが「敬意を持って作られている」と評価している。各イベントには対応する聖書の章節が表示され、ストーリーは新約聖書に忠実だ。開発チームのこの題材への情熱は、プレイすれば確かに伝わってくる。

宗教とゲームの新しい地平

本作は完璧からは程遠い。グラフィックは時代遅れで、AIボイスは不自然、ミニゲームは単調だ。しかし、5人のチームが誰も踏み込んだことのない領域に挑戦し、一つの形を作り上げたという事実は尊重されるべきだろう。

PlayWayは今後、『Moses: From Egypt to the Promised Land』(モーセのエジプト脱出)や『Noah’s Ark』(ノアの箱舟)といった聖書をテーマにしたゲームも予定しているという。宗教とゲームの交差点は、まだ始まったばかりだ。

「イエス・キリストになるゲーム」――このコンセプトだけで笑い飛ばすのは簡単だ。実際、ミーム的な要素も多分に含んでいる。しかし、プレイしてみると、そこには誠実な試みと、ゲームという媒体の新しい可能性が垣間見える。信仰心の有無に関わらず、一度体験してみる価値はあるだろう。

そんな本作はSteamにて、1,500円程度で発売中だ。デモ版『I Am Jesus Christ: Prologue』も無料で配信されているので、興味があればまずはそちらを試してみることをオススメする。

基本情報

開発: SimulaM / Space Boat Studios
販売: PlayWay S.A.
リリース日: 2026年4月2日
価格: 1,520円(通常価格)/ 1,368円(発売記念10%オフ)
プラットフォーム: PC (Steam) (Epic Games Store)
プレイ人数: 1人
言語: 日本語、英語、その他12言語対応
ジャンル: 一人称シミュレーション 宗教 教育 アドベンチャー オープンワールド 歴史 信仰 聖書
Steam評価:圧倒的に好評(86% – 715件以上のレビュー)

購入リンク

Steam: https://store.steampowered.com/app/1198970/I_Am_Jesus_Christ/

Epic Games Store: https://store.epicgames.com/en-US/p/i-am-jesus-christ-7ca517

公式リンク

公式サイト: https://spaceboatstudios.com/iamjesus/

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