異次元を彷徨うディーゼルパンクな暗殺者『Mohrta』。DOOMエンジンが生み出した奇妙で美しい悪夢のような世界

更新: 2025年10月23日
異次元を彷徨うディーゼルパンクな暗殺者『Mohrta』。DOOMエンジンが生み出した奇妙で美しい悪夢のような世界

最初に見た瞬間、完全に困惑した

Steam のストアページで『Mohrta』を初めて見たとき、筆者の頭は混乱でいっぱいだった。ノンリニア FPS アドベンチャー、5つの異次元、ソウルライク……そして驚くべきことに、これら全てが初代『DOOM』のエンジン「GZDoom」で作られているという。

「レトロなエンジンでそんなことできるの?」という素朴な疑問とともに、Steam評価 89% という驚異的な数字に背中を押されてプレイボタンを押した筆者。しかしその後待っていたのは、想像をはるかに超える奇妙で美しい体験だった。

まるで悪夢の中を歩いているような感覚

『Mohrta』をプレイしていると、夢の中を歩いているような不思議な感覚に襲われる。それも、ちょっと悪夢じみた奇妙な夢だ。

プレイヤーが操作するのは、どこかディーゼルパンクな雰囲気を漂わせるサイボーグのような暗殺者。金属マスクに身を包んだその姿は、映画『マッドゴッド』の登場人物と『人狼 JIN-ROH』の装甲兵を足して2で割ったような、独特の重厚感がある。彼(彼女?)は同じ戦士カーストの裏切り者を始末するため、形而上学的な次元の最果てに送り込まれたのだ。

しかし、この設定だけ聞くとありがちなSFアクションに思えるかもしれない。実際にプレイしてみると、そんな先入観は開始5分で粉々に砕かれる。

肩に止まるハゲタカと踊る人形

本作で最初に筆者を驚かせたのは、懐中電灯の代わりに肩の上に止まっているハゲタカのコンパニオンだった。暗闇でライトボタンを押すと、ハゲタカが不機嫌そうに鳴きながら羽をばたつかせ、なぜか生物発光で周囲を照らしてくれる。

回復アイテムも一般的なポーションではない。代わりに、手のひらサイズの愛らしい生きた人形の友達がいる。体力が減った時にこの人形をぎゅっと握ると、彼女が小さなダンスを踊って体力を回復してくれるのだ。武器のアップグレードには、世界に散らばっている他の人形たちのボタンの目玉を集める必要がある。

「なんだこれは……」と思わず呟いてしまったが、この奇妙さこそが『Mohrta』の魅力なのだ。

『デモンズソウル』のハブエリアを彷彿とさせる拠点

本作の真の魅力が開花するのは、メインハブエリアに到着してからだ。ここは時空を超えた大都市の一角にある、バザールと地下鉄駅を合体させたような空間で、『スター・ウォーズ』のモス・アイズリー酒場を『モロウィンド』のヴィヴェクやアルド=ルーンのような屋内都市区域で再現したような雰囲気がある。

ローブを着た異形のエイリアンたちが群衆として行き交い、はるかに大きな世界があることを感じさせてくれる。そしてここで出会うショップの店主たちが、また絶妙なキャラクター性を発揮している。

マナの強化を担当するのは、フェズ帽をかぶって水パイプを吸っている高慢ちきな青緑色のライオン。武器のアップグレードは、実は小さないたずら好きな小鬼が操縦している巨大な蒸気ゴーレムの鍛冶屋が担当する。どちらも少ない台詞ながら、強烈な印象を残してくれる。

5つの次元、それぞれが異なる挑戦

『Mohrta』の最大の特徴は、5つの巨大な次元を好きな順番で攻略できることだ。各次元はテーマが大きく異なり、砂漠の峡谷村から始まって、毒々しい沼地、機械仕掛けの要塞、氷に覆われた廃墟など、まったく違う雰囲気の世界が待っている。

特筆すべきは、各次元のボスたちが単純な悪役ではないことだ。彼らはみな悲劇的な背景を持つキャラクターであり、主人公と同じ戦士カーストに所属していた者たちでもある。戦闘前の演出や戦闘中の台詞から、彼らの動機や悲しみが伝わってくるため、倒すときには少し複雑な気持ちになってしまう。

DOOMエンジンの可能性を押し広げる技術力

『Mohrta』を語る上で外せないのが、その圧倒的な技術力だ。1993年のDOOMエンジンをベースにした「GZDoom」で、よくここまでの表現ができるものだと感嘆せざるを得ない。

レベルデザインは精巧で、2.5Dとは思えないほど立体的な空間構成を実現している。ローポリゴンながらも非常にスタイリッシュなアートスタイルで、PS1時代のゲームを現代の技術で蘇らせたような独特の魅力がある。

敵キャラクターも50種類以上と豊富で、それぞれが独特の動きとビジュアルを持っている。20体を超えるボスたちも、どれも印象的なデザインと攻撃パターンを持っており、記憶に残る戦いを繰り広げてくれる。

武器カスタマイズの深さに唸る

本作のもう一つの魅力が、武器システムの奥深さだ。各武器には複数の機能が備わっており、アップグレードによってさらに能力を拡張できる。プレイスタイルに合わせたカスタムロードアウトを組むことで、まったく異なる戦闘体験が楽しめる。

筆者は最初、近接武器中心で進めていたが、途中で拾った強力な遠距離武器に切り替えてプレイスタイルを大幅に変更した。武器の付け替えはいつでも可能なので、状況や気分に応じて戦術を変えられるのが嬉しい。

ノンリニア進行が生み出す自由度

『Mohrta』では、チュートリアル的な最初のエリアを除けば、どの順番で次元を攻略するかは完全に自由だ。この自由度が、プレイヤーごとに異なる体験を生み出している。

筆者は比較的易しいと思われる沼地エリアから始めたが、友人は最も困難とされる機械要塞に最初に挑戦したという。どちらのアプローチも正解で、それぞれが自分だけの『Mohrta』体験を作り上げることができる。

また、一度クリアした後も、異なる順番で攻略することで新しい発見があるため、リプレイ性も非常に高い。

ただし、言語の壁は要注意

一点だけ注意が必要なのは、本作が日本語に対応していないことだ。ストーリーやキャラクターの台詞、アイテムの説明などはすべて英語となっている。

幸い、ゲームプレイ自体は直感的で、英語が得意でなくても基本的な進行には支障がない。しかし、豊かな世界観やキャラクターの背景を完全に理解するには、ある程度の英語力が必要になる。

それでも、視覚的なインパクトとゲームプレイの面白さは言語の壁を越えて伝わってくる。英語に不安がある方も、辞書を片手にゆっくりとプレイしてみる価値は十分にある。

2,300円という価格設定も魅力的

2025年10月14日にリリースされたばかりの『Mohrta』は、現在Steam で2,300円で購入できる。この価格帯で、これほどまでに作り込まれた世界観と、30時間は楽しめるボリュームを提供してくれるのは、非常にコストパフォーマンスが高い。

開発は『Vomitoreum』で知られるScumheadとアーティストのOsiolが担当。彼らの独特のアートスタイルが、本作の奇妙で美しい世界観を支えている。

まとめ:異次元体験へのパスポート

『Mohrta』は、間違いなく2025年のインディーゲーム界における隠れた傑作の一つだ。ノンリニアFPS、ソウルライク、異世界探索といった要素を独特のセンスで融合させ、他では味わえない体験を提供してくれる。

言語の壁や独特すぎる世界観で敬遠される可能性もあるが、それを乗り越える価値は十分にある。レトロなゲームエンジンで現代的な表現に挑戦した技術力、想像力豊かなアートワーク、そして自由度の高いゲームプレイ。これら全てが組み合わさって、忘れられない体験を作り上げている。

奇妙で美しい悪夢のような世界を彷徨いたい方、ユニークなゲーム体験を求める方には、心からお勧めしたい一作だ。

基本情報

タイトル: Mohrta
開発者: Scumhead, Osiol
パブリッシャー: Scumhead
リリース日: 2025年10月14日
プラットフォーム: PC (Steam)
価格: 2,300円
言語: 英語のみ
ジャンル: FPS, アドベンチャー, インディー
プレイ時間: 約20-40時間
Steam評価: 非常に好評 (89%)

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