
「シャーロック・ホームズのゲームって、なんかお堅いイメージがあって……」そう思っていた筆者を、まんまと騙してきたのが今回紹介する『Crushed In Time』だ。プレイし始めて5分も経たないうちに、「あ、これ全然そういうゲームじゃない」と悟らされることになる。
ゲームそのものを”壊す”という発想
『Crushed In Time』は、フランスのインディースタジオDraw Me A Pixelが手がけるポイント&クリックアドベンチャーだ。同スタジオの前作『There Is No Game: Wrong Dimension』を知っている人ならすぐにピンとくるだろう——あの「ゲームが存在しないことを主張するゲーム」を作ったスタジオの新作である。

本作の出発点はシンプルだ。シャーロック・ホームズとワトソン博士を主役にした新作ゲームがリリースされた、その直後に登場人物のひとりが謎の失踪を遂げてしまう。プレイヤーは二人の名探偵を引き連れ、ゲームの開発過程そのものを時間旅行するという奇妙な捜査に乗り出すことになる。アルファ版の荒削りなステージを探索したり、プロトタイプのキャラクターに出会ったり、果てはゲーム開発スタジオのパニック現場にまで飛び込む——そんな展開が待っている。
クリックしない「ポイント&クリック」
本作の最大の特徴は、「エラスティック(弾性)」操作システムだ。ポイント&クリックのジャンルでありながら、基本操作は「つかんで引っ張って離す」こと。画面内のあらゆるオブジェクトに対して、まるでゴムひもを引き伸ばすように操作できる。
たとえばホームズの鼻を引っ張るとくしゃみが出て、それが特定の仕掛けを作動させる、なんていうパズルもある。ドアノブを弾くようにひっぱたく、ロウソクを揺らして影を動かす、キャラクターを遠くまでぶっ飛ばす——物理ベースのパズルは一見「ゴリ押し」に見えるが、実は巧妙にデザインされた解法がある。このシステムを公式は「シュボーン(Schboing)」と呼んでいるのだが、その響きだけでもすでにこのゲームの空気が伝わってくる。

最初は「これ、本当にこれだけ?」と半信半疑だったのが、気づけばあらゆるものを引っ張ってみたくなっている。操作の自由度を絞ることで、逆にパズルの発想の幅を広げる——Draw Me A Pixelのデザイン哲学がここにも宿っている。
メタフィクションが最大の武器
本作のストーリーは、ゲーム開発という行為そのものをネタにしたメタ構造になっている。登場するキャラクターに「エメット・プレースホルダー」なる顔のないNPCがいて、その存在自体がジョークになっていたり、ステージが突然テキストアドベンチャー形式に切り替わったり、Game & Watchスタイルのミニゲームが差し込まれたりする。

「第四の壁を壊す」ゲームはたくさんあるが、本作はその壁を壊した後に何が残るかまで考えて設計されている印象だ。単なるギャグで終わらせず、終盤では意外な感情的深みも見せてくる。レビュアーたちが口を揃えて「感動的なエンディング」と評しているのも伊達ではない。
ユーモアのセンスも独特で、「実際に人間が収録したセリフです。オーガニックで添加物不使用」なんてゲーム内テキストが平気で出てくる。笑いが随所に仕込まれていて、どの場面でも何かしらニヤリとさせられる。
ゲーム開発者への愛と皮肉

Draw Me A Pixelがこのゲームで一貫して描いているのは、ゲームを「作る側」への愛情と軽妙な皮肉だ。開発スタジオが大パニックになる様子、デバッグされていないプロトタイプ、バグだらけのアルファ版ステージ——これらは業界へのオマージュであり、同時にゲーム制作の苦労を知るプレイヤーへのウィンクでもある。
実際の開発者たちもメタシーンに登場するため、ノンフィクションとフィクションの境界が意図的にぼかされている。こういったゲーム愛に満ちたアプローチが、単なるコメディを超えた奥行きを本作に与えている。
気になる点も正直に言うと
良作ではあるが、万人向けではない部分も正直に触れておきたい。エラスティック操作はユニークだが、精度が求められる場面(特に第5章のQTE系パズル)では、マウス推奨とされるだけあってコントローラーだとやや辛い。

また、プレイ時間は一周あたり数時間とコンパクトめ。ボリュームを期待して買うと物足りなさを感じる可能性がある。ただ、この「短くて密度が高い」設計はむしろ狙い通りで、ダレる場面がほぼなくテンポが心地よい。Metacriticのスコアは79点、Steam評価は90%の高評価(591件)——批評家と一般プレイヤーの両方から支持されているのも納得だ。
「ゲームとは何か」を問う系譜の新章
Draw Me A Pixelという会社は、ゲームというメディア自体への問いかけを作品の軸に据えているスタジオだ。『There Is No Game』がゲームであることを否定する方向から攻めたとすれば、『Crushed In Time』はゲームが作られる過程から揺さぶってくる。

前作を知らなくても十分楽しめる作りになっているが、知っていると随所のオマージュがより深く刺さる。ホームズとワトソンという古典的なキャラクターをこのメタ宇宙に引き込むアイデアも秀逸で、二人の「頼りなさ」が逆に物語の魅力になっている。
「ちょっと変わったものが遊びたい」「ゲームについて語るゲームが好き」「笑えて、ちょっと感動できるものを」——そんな気分の人に、ぜひ手を伸ばしてほしい一本だ。
基本情報
開発: Draw Me A Pixel
販売: Draw Me A Pixel
リリース日: 2026年6月10日
価格: 通常価格 3,150円 ローンチ20%OFFセール中
プラットフォーム: PC(Steam)、iOS/Android・Switch(予定)
プレイ人数: 1人
言語: 英語(字幕10言語対応)
ジャンル: アドベンチャー、ポイント&クリック、パズル、コメディ
Steam評価: 非常に好評(90% – 591件のレビュー)
購入リンク
Steam: https://store.steampowered.com/app/3858650/Crushed_In_Time/
公式リンク
公式サイト: https://drawmeapixel.com/games/crushed-in-time
X (Twitter): https://x.com/DrawMeAPixel
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YouTube: https://www.youtube.com/@drawmeapixel


