
クオリティ、高すぎるぞ…?
「選択が重要」と謳うゲームは世の中にあふれている。しかし、実際にプレイしてみると「結局同じ展開に収束するんじゃん」とガッカリした経験は誰にでもあるはずだ。『The Walking Dead』や『The Wolf Among Us』といったTelltale Gamesの黄金期を知るゲーマーなら、なおさらその幻滅は大きかったに違いない。
そんな失われた黄金時代を取り戻すべく、元Telltale開発陣が立ち上げたAdHoc Studioが放つ最新作──それが『Dispatch』だ。2025年10月22日にPC(Steam)とPS5で第1・2エピソードが配信開始されると、Steamでは90%という驚異的な高評価を叩き出し、デモ版に至っては98%の圧倒的好評を獲得。ピーク時の同時接続プレイヤー数は1万2000人を突破し、各メディアから「今年のGOTY候補」との呼び声も高い。
筆者も発売日からプレイしているが……正直、期待値を大幅に超えてきた。これは単なる「Telltale風ゲーム」ではない。Telltaleの遺伝子を受け継ぎながら、それを超えた新世代の物語体験がここにある。
スーパーヒーロー×職場ドラマという絶妙な化学反応

『Dispatch』の舞台は、スーパーヒーローが実在する現代ロサンゼルス。主人公のロバート・ロバートソン(通称メカマン)は、かつては高性能メカスーツで活躍していた三代目スーパーヒーローだ。しかし宿敵シュラウドとの戦いでスーツが大破し、修理費用に全財産を注ぎ込んだ末に破産。ヒーロー活動から引退を余儀なくされる。
そんな彼に舞い込んだのが、スーパーヒーロー派遣会社「SDN(Superhero Dispatch Network)」でのディスパッチャー(派遣担当者)という仕事だ。しかも担当するのは、元ヴィラン(悪役)たちで構成された更生プログラム「フェニックス・プログラム」のZチーム。彼らを街中の緊急事態に派遣し、ヒーローとして社会復帰させるのがロバートのミッションとなる。

この設定が絶妙なのは、ヒーローの「裏方」に焦点を当てている点だ。派手な戦闘シーンや世界を救う壮大な物語ではなく、オフィスの人間関係、予算の都合、元ヴィランたちの抱える過去や葛藤といった、極めて人間臭いドラマが展開される。
『The Boys』のようなシニカルなヒーロー観と、『Life is Strange』のような選択重視のゲームプレイ、そして『The Office』のような職場コメディの要素が見事に融合しているのだ。公式も「職場コメディ」と銘打っているが、実際プレイすると休憩室での何気ない会話から重要な決断まで、すべてがシームレスに物語を動かしていく。
「選択が重要」を本気で実現した物語設計

『Dispatch』最大の特徴は、選択が本当に意味を持つという点だ。かつてTelltaleゲームスでお馴染みだった「○○は覚えているだろう」というメッセージは今作にも健在だが、その重みがまるで違う。
たとえば第2エピソードでは、Zチームから1人をクビにしなければならない決断を迫られる。プレイヤーは限られた時間内に各メンバーを緊急事態に派遣し、その成績をもとに判断を下す。しかしメンバーたちは互いに足を引っ張り合い、ポイントを稼ごうと必死だ。そんな中、能力は低いが必死に努力するInvisigal(元Invisibitch)をどう扱うか──この選択ひとつで、その後の展開が大きく変わる。

開発陣は「プレイヤーが何気なく発した一言でさえ、物語に影響を与える」と語っているが、これは誇張ではない。実際、友人とプレイ後に話してみると、同じエピソードでも全く異なる展開を経験していることに驚いた。あるシーンで登場したキャラクターが、別のプレイヤーの物語には一切出てこない。ある選択肢を選ぶと、まるごとイベントが変わる。
この分岐の多様さは、全8エピソードで膨大なリプレイ性を生み出している。筆者はすでに第1・2エピソードを3周プレイしたが、毎回新しい発見があり、「あのとき別の選択をしていたら……」という後悔と好奇心が尽きない。
Telltaleを超えた、アニメ級の映像クオリティ

もうひとつ、『Dispatch』を語る上で外せないのが圧倒的な映像美だ。Telltaleゲームスの作品は素晴らしいストーリーテリングで知られていたが、正直アニメーションは「まあまあ」というレベルだった。しかし『Dispatch』は違う。
キャラクターの表情、仕草、カメラワーク、すべてが劇場アニメ級のクオリティで描かれている。Invisigalが自信なさげに視線を逸らす瞬間、Blonde Blazerが意味深な笑みを浮かべる表情、ロバートが過去を思い出して一瞬だけ目を伏せる演出──細部まで作り込まれた映像が、物語への没入感を極限まで高めている。

実際、プレイしているというより「インタラクティブなアニメシリーズを観ている」感覚に近い。各エピソードは約50分で構成されており、まさにTVアニメの1話分。毎週火曜日に新エピソードが2話ずつ配信されるという形式も、この「アニメ体験」を強化している。
開発チームは「プレイできるTV番組を作りたかった」と語っているが、まさにその理想を実現している。しかもただ「観る」だけでなく、自分の選択で物語が変わるのだから、従来のアニメでは味わえない特別な体験が得られるのだ。
声優陣の豪華さが半端ない

『Dispatch』のもうひとつの魅力が、圧倒的な豪華声優陣だ。主人公ロバート役には『ブレイキング・バッド』のアーロン・ポール、Blonde Blazer役にはエリン・イヴェット、Invisigal役には『The Last of Us Part II』のローラ・ベイリー、そして敵役Shroud役には『THE BATMAN』のジェフリー・ライトと、そうそうたる面々が名を連ねる。
さらにはMatthew Mercer、Travis Willingham、jacksepticeye、MoistCr1TiKaL、Alanah Pearce、Joel Haverといった、ゲーム業界やストリーマー界隈で知られる人物も多数参加しており、ファンにはたまらないキャスティングとなっている。
そしてこの声優陣の演技が、本当に素晴らしい。アーロン・ポールが演じるロバートは、落ちぶれた元ヒーローの疲弊感と、それでも諦めきれない情熱が滲み出ている。ローラ・ベイリーのInvisigalは皮肉屋だが脆さも感じさせ、エリン・イヴェットのBlonde Blazerは自信に満ちた外見の裏に隠された不安が垣間見える。
こうした繊細な演技が、既述の映像クオリティと相まって、キャラクターたちが本当に生きているかのような錯覚を覚えさせる。声だけで感情が伝わってくる──それほどまでに、声優陣の仕事は見事だ。
派遣マネジメントが意外と奥深い

『Dispatch』のゲームプレイは大きく2つに分かれる。ひとつは会話シーンでの選択肢、そしてもうひとつがスーパーヒーローの派遣マネジメントだ。
ゲーム中、ロサンゼルスの街を見下ろすマップ画面に切り替わり、街中で発生する緊急事態に対してZチームのメンバーを派遣する。各メンバーには力、敏捷性、知性、カリスマといったステータスがあり、事件の内容に応じて適切なメンバーを選ぶ必要がある。
たとえば「木に登って動けなくなった猫を救出」なら敏捷性の高いメンバー、「暴れている酔っぱらいを説得」ならカリスマの高いメンバーが適任だ。しかしメンバーにはクールダウンタイムがあり、連続で派遣することはできない。さらに複数の事件が同時多発することもあり、どのメンバーをどの事件に割り当てるかという戦略的な判断が求められる。

正直、最初は「これって単なるミニゲームでしょ?」と思っていた。しかし実際にプレイすると、この派遣マネジメントが物語と密接に結びついていることに気づく。失敗した任務はキャラクターとの関係に影響し、適切な派遣を続けることで信頼を得られる。誰をどの任務に送るか──その選択ひとつで、物語の展開が変わるのだ。
また、任務中には通信を通じてリアルタイムでアドバイスを送る場面もあり、ここでも選択肢が登場する。「冷静に対処しろ」と伝えるか、「思い切って攻めろ」と背中を押すか──こうした些細な判断の積み重ねが、キャラクターとの絆を深めていく。
加えて、ハッキングミニゲームも登場する。3D迷路を時間制限内に進みながら、同時に無線で流れる緊急事態の報告を聞くというマルチタスク的な緊張感があり、これがゲームにアクセントを加えている。
エピソード配信形式の功罪
『Dispatch』は全8エピソードで構成されており、第1・2エピソードが10月22日に配信された後、毎週火曜日に2エピソードずつ追加され、11月12日に完結する予定だ。
このエピソード配信形式には賛否両論ある。かつてTelltaleゲームスもこの形式を採用していたが、エピソード間の待機時間が長すぎて熱が冷めてしまう問題があった。しかし『Dispatch』は週次配信という短いスパンを採用しており、しかも1回に2エピソードずつリリースされるため、熱を保ったまま物語を追える。

実際、筆者も火曜日が待ち遠しくて仕方ない。「次はどうなるんだろう」「あの選択の結果はどう影響するのか」──こうしたワクワク感は、完全版を一気にプレイするのとは異なる特別な体験だ。まるで毎週放送されるTVシリーズを追いかけている感覚で、友人やコミュニティと「今週のエピソードどうだった?」と語り合う楽しみもある。
ただし、短いスパンでの配信ゆえに、1エピソードあたりのプレイ時間は40〜50分程度。ボリュームを求めるプレイヤーには物足りなく感じるかもしれない。しかし全8エピソードで計6〜7時間のプレイ時間となり、しかもリプレイ性が非常に高いことを考えれば、十分なコンテンツ量と言えるだろう。
Steam Deckでも快適にプレイ可能

『Dispatch』はSteam Deck Verifiedに認定されており、携帯モードでも快適にプレイできる。実際、筆者もSteam Deckで何度かプレイしたが、60fpsで安定動作し、インターフェースも小さな画面に最適化されている。
テキストサイズの調整、色覚サポート、QTE(クイックタイムイベント)の難易度設定など、アクセシビリティ機能も充実しており、幅広いプレイヤーに対応している。QTEが苦手なら完全にオフにすることも可能だ(ただし、筆者は緊張感が増すのでオンのままプレイすることをおすすめする)。
ちなみに本作は16:10の解像度には対応していないため、Steam Deckでは若干の黒帯が表示されるが、プレイに支障はない。むしろ、寝転がりながらこの傑作を楽しめるというのは、非常にありがたい。
完璧ではない──いくつかの粗も

絶賛ばかりしてきたが、『Dispatch』にも改善の余地はある。まず、PC版では画面のティアリング(画面がずれて表示される現象)や、音声の同期ズレが発生することがある。V-Syncをオンにしても完全には解消されないため、今後のパッチでの改善を期待したい。
また、派遣マネジメントのパートは楽しいものの、コントローラー操作が若干もっさりしている。マウス&キーボードでのプレイが推奨されるが、Steam Deckでプレイする際にはやや操作しづらさを感じる場面があった。

さらに、第1・2エピソードの時点では、一部のキャラクターがあまり掘り下げられていない。Zチームには魅力的なメンバーが揃っているが、各エピソードが50分程度と短いため、全員にスポットライトが当たるわけではない。今後のエピソードでより深く描かれることを期待したい。
とはいえ、これらは本作の魅力を損なうほどの欠点ではない。むしろ、エピソード配信が進むにつれて改善される可能性も高い。実際、第3・4エピソードではさらに物語が深まり、派遣マネジメントの重要性も増しているとのレビューもあり、今後の展開に期待が高まる。
2025年のGOTY候補、いや確定レベルの傑作

『Dispatch』は、元Telltaleゲームス開発陣が「選択が本当に意味を持つゲーム」を作り上げた、まさにTelltale黄金期の真の後継者だ。圧倒的な映像美、豪華声優陣の演技、奥深い派遣マネジメント、そして何よりプレイヤーの選択によって大きく変わる物語──これらすべてが高いレベルで融合している。
Steamでの高評価、各メディアからの絶賛、そしてコミュニティでの盛り上がりを見る限り、本作は間違いなく2025年のGOTY候補に名を連ねるだろう。いや、このクオリティが最後まで維持されるなら、GOTY確定と言っても過言ではない。

もしあなたが『The Walking Dead』や『The Wolf Among Us』の黄金期を懐かしんでいるなら、あるいは『Life is Strange』のような選択重視のゲームが好きなら、『Dispatch』は絶対にプレイすべき作品だ。週次配信という形式のおかげで、今から始めても十分にコミュニティと一緒に物語を追える。
火曜日が待ち遠しくなる──そんなゲーム体験を、ぜひあなたも味わってほしい。
基本情報
タイトル: Dispatch
開発元: AdHoc Studio
パブリッシャー: AdHoc Studio
プラットフォーム: PC (Steam), PlayStation 5
プレイ人数: 1人
リリース日: 2025年10月22日(エピソード1・2)、11月12日完結予定
ジャンル: アドベンチャー、選択型物語、ストラテジー、コメディ
プレイ時間: 各エピソード40〜50分、全8エピソードで約6〜7時間
価格: 3,400円(Steam)
言語: 日本語対応
Steam評価: 非常に好評(90%、11,000件以上)
Steam Deck: 対応(Verified)
難易度: 選択型のため、難易度設定なし(QTE難易度は調整可能)
購入リンク
- Steam: https://store.steampowered.com/app/2592160/Dispatch/
- PlayStation Store: PS5版(海外ストアのみ)https://store.playstation.com/en-us/concept/10013259
公式リンク
- 公式サイト: https://www.adhocstudio.com/dispatch
- X(Twitter):https://x.com/theAdHocStudio



