
これが現代の採掘シミュレーションだ!
筆者は長年、様々な戦略シミュレーションゲームをプレイしてきたが、最近は似たようなタイトルばかりで正直食傷気味だった。基地建設、リソース管理、タワーディフェンス……どれも見たことのある要素の組み合わせで、「またか」という印象が拭えない。
そんな中で出会ったのが、セルビアの新進デベロッパーHungry Couch Gamesが手がけた『Drill Core』だ。tinyBuildがパブリッシングを担当し、2024年9月から早期アクセスを開始、そして2025年7月17日に待望の正式版がリリースされた。
Steam評価84%という高い数値に惹かれてプレイしてみたところ、これが予想以上の傑作だった。単なる戦略ゲームではない。企業の強欲をテーマにした、戦略とサバイバルの完璧な融合がここにあった。
DrillCore社員として、惑星採掘の最前線へ

舞台は近未来。プレイヤーはDrillCore社のプラットフォーム・マネージャーとして、気候変動と戦うために(という建前で)各惑星の採掘作業を指揮することになる。公式の求人広告風の説明文が実に秀逸で、「私たちは鉱物を採掘しているだけではありません。未来を守っているのです」なんて謳っているが、実際のところは露骨な利益追求だ。
ゲームシステムは明快で奥深い。昼間は採掘チームを指揮して貴重な資源を掘り出し、夜になると襲来するエイリアンの群れから基地を守る。この昼夜サイクルが絶妙なテンポを生み出している。
操作するのは3種類のワーカーだ。マイナー(採掘者)が地中を掘り進み、キャリア(運搬者)が資源を運び、ガード(警備員)が危険なエリアを警備する。プレイヤーは彼らに直接命令を下すのではなく、「ここを掘れ」「ここに建物を建てろ」といった指示を出す間接的なコントロールが特徴的だ。
そして夜が来る。地上からは昆虫型のエイリアンが群れを成して襲撃し、地下では掘削した穴から別の脅威が現れる。この時点でゲームはタワーディフェンスに変貌する。配置したタレットと撤退させたワーカーで、ドリルプラットフォームのコアを死守しなければならない。
計画と即興、プロフィットとサバイバルの狭間で

『Drill Core』の最大の魅力は、常に複数の要素を同時に考えなければならない戦略的な深さにある。単に効率よく資源を採掘すればいいわけではない。深く掘れば掘るほど貴重な資源が手に入るが、同時に危険も増す。夜の攻撃も激しくなる。
限られたプラットフォームスペースに何を建設するかも悩ましい選択だ。タレットを増やして防衛を固めるか、研究施設を建てて技術向上を図るか、ワーカーの住居を増やして人員を確保するか……。建物は重ね置きもできるが、それでもスペースは有限だ。
特に印象的だったのが、モラール向上のためのバー施設だ。これを建設すると労働者の士気が上がり、作業効率が向上する。こういった細かい要素が、単なる数値管理ではない「会社経営」としてのリアリティを演出している。

ローグライト要素も見事に機能している。各ミッションは独立しているが、獲得した資源で永続的なアップグレードを購入できる。特に興味深いのが、ドワーフやスワームイドといった異なる種族を解放できることだ。各種族には独自の特性があり、プレイスタイルが大きく変わる。
開発者がアップデートで追加した「目標達成型の報酬システム」も秀逸だ。「15基以上のタレットを設置してクリア」といった条件を満たすと、新しい建物や技術が解放される。これがプレイヤーに新たな戦略を模索させる動機となっている。
アクセシブルでありながら奥深い、理想的なバランス

『Drill Core』の素晴らしい点は、戦略ゲーム初心者でも楽しめるアクセシビリティを保ちながら、上級者も満足できる戦略的深度を両立していることだ。UIは直感的で読みやすく、Steam Deckでも快適にプレイできる。
音響面も特筆に値する。Lo-fi風のBGMが作業に集中させてくれる一方、夜になると緊張感を高める音楽に切り替わる。戦闘音も明瞭で、画面外で何が起こっているかもすぐに把握できる。
ピクセルアートも美しく、レトロフューチャーな世界観を見事に表現している。昼夜の視覚的変化も効果的で、夜の襲撃時は本当に緊張感が高まる。

もちろん完璧ではない。一部のプレイヤーからは「ワーカーのAIがもう少し賢ければ」「難易度の上昇がやや急激」といった指摘もある。しかし、これらは今後のアップデートで改善される可能性が高く、現時点でも十分に楽しめるレベルだ。
実際、筆者は「もう一回だけ」と言いながら気がつくと数時間プレイしていることが何度もあった。これこそローグライト系ゲームの理想的な中毒性だろう。
インディーゲーム界の新たな傑作

『Drill Core』は、複数のジャンルを見事に融合させた現代的な戦略ゲームの傑作だ。企業の強欲というテーマを軸に、戦略、管理、サバイバル、ローグライトの要素を絶妙にブレンドしている。
Hungry Couch Gamesは『Black Skylands』でも話題になったスタジオだが、本作でその実力を確実に証明した。tinyBuildのパブリッシング手腕も素晴らしく、早期アクセスから正式版まで丁寧に作り上げられた完成度の高さが光る。
2000円という価格も魅力的だ。これだけの内容でこの価格は、コストパフォーマンス抜群と言えるだろう。戦略ゲーム好きはもちろん、シミュレーション系に興味のある人なら誰でも楽しめる傑作に仕上がっている。
企業の論理と個人の良心、効率と安全性、計画と即興──現代社会の様々な矛盾を巧みに織り込んだ『Drill Core』は、間違いなく2025年のインディーゲーム界における重要作の一つだろう。



基本情報
ゲーム名: Drill Core
開発者: Hungry Couch Games
パブリッシャー: tinyBuild
配信日: 2025年7月17日
定価: 2000円(Steam)
日本語: ○
対応プラットフォーム: Steam (PC)
Steam評価: 非常に好評 (84%)
Steam Deck: 対応済み
公式リンク: