
「チェスって難しそう」──そう思って敬遠していた人ほど、このゲームにハマる。
筆者はチェスの戦略を語れるような人間では全くない。キャスリングがなんとなくわかる程度だ。そんな筆者でも、『Gambonanza』をプレイし始めたら気づいたら2時間が経っていた。ゲームオーバーのたびに「もう1回」と手が動く。これは何かがおかしい。

ソロ開発者Paul Giovannini(Blukulélé Studio)が作り上げたこのゲームは、チェスを「ローグライク」に変えた作品だ。しかしただのチェス+ローグライクではない。勝利条件そのものを変えてしまった。王を取るのではなく、盤上の敵駒をすべて取り切ること──この1点の変更が、チェスをまったく別のゲームに生まれ変わらせる。
「王を狙わなくていい」が、すべてを変える
通常のチェスは相手の王を詰めれば勝ちだ。しかし『Gambonanza』の勝利条件は「盤上の敵駒を全滅させること」。これが何を意味するかというと、ポーンの1枚たりとも無駄にできない、という緊張感だ。
さらに独特なのが「クランブルモード」と呼ばれる仕組みだ。駒を取らずにターンを3回連続で消費すると、盤面の端から崩壊し始める。つまり待ちの戦術は許されない。常に前へ、常に攻撃的に動き続けることを強いられる。この制約が絶妙な緊張感を生んでいて、「あと1手でやられる!」という局面でも焦らずに突っ込んでいけるようになる。筆者が「チェスをわかってきた気がする」という錯覚を覚えたのも、この仕組みのおかげだろう。
ボードは5×5のコンパクトなサイズからスタートする。最初は3駒だけ。シンプルに見えて、敵も動き、盤も動く。その中で自分の手を見つけていく──これが実に心地よい。
150種のガンビットが「壊れる快感」を作り出す
本作の核心は「ガンビット」だ。対局に勝つたびに得たコインをショップで消費し、ガンビットと呼ばれる特殊ルールを購入・習得していく。これが150種類以上存在する。

ガンビットの内容は文字通り「ルールを改変する」ものだ。例えばビショップを強化して全方向に動けるようにしたり、敵のターンをスキップさせる効果を持たせたり、取った駒をゴールド変換してコインにしたり。個々のガンビットは地味に見えても、複数が組み合わさったときに「あ、これ壊れてる」という瞬間が訪れる。
筆者が初めてガンビットのシナジーに気づいたのは5回目のプレイだった。ビショップ強化×連続取得ボーナス×ゴールド化の3つが噛み合い、1ターンで盤面を半壊させてしまった。思わず声が出た。ローグライクにおける「発見の快感」が、チェスという文脈で完璧に再現されている。
タイル強化も見逃せない。ボード上のマスに特殊効果を付与できる「タイルアップグレード」が存在し、黄金マスを踏むとゴールドが入ったり、特定のマスで駒が強化されたりする。駒を動かしながら「どこを踏み、どこを踏ませないか」という空間的な思考が加わり、単純な駒取りゲームには戻れなくなる。
実在のチェス棋士が「ボス」として現れる

5戦ごとに強力なボスが出現する。そのボスたちが面白い。実在する有名チェス棋士をモチーフにしたキャラクターで、「Judit Polgeisha」(ユディット・ポルガー)や「M3CHM4GNUS C4RLS3N」(マグヌス・カールセン)など、ふざけた名前の中に敬意が透けて見えるデザインが最高だ。ゲームを通じて実際の棋士への興味も湧いてくる。
さらにガンビットの名前も実在の棋士や文化への参照に満ちている。「ハイパーバレットのガンビット」はスピードチェスの名手Andrew Tang(PenguinGM1)にちなんでいて、全試合が30秒以内で解決されるという狂ったルールを課してくる。「ベスのガンビット」はNetflixの『クイーンズ・ギャンビット』から。こういう遊び心の密度がすごい。
ソロ開発者が作り上げた奇跡の完成度
『Gambonanza』はパリを拠点とするPaul Giovanniniが1人で開発した作品だ。トレーラーの初公開から1年も経たないうちに、Stray Fawn PublishingとSidekick Publishingというヨーロッパのインディーパブリッシャー2社が一緒に手を挙げた。Stray Fawnの共同創業者が「トレーラーを見た当日に連絡した」と語るほどの衝動的な支持だった。

2026年2月のSteam Next Festでは、デモが17万ダウンロード以上を達成してイベント内でも話題の作品に。それだけの注目を集めた理由が、実際にプレイするとよくわかる。「チェスをベースにしながらも、チェスを知らない人でも楽しめる」という設計の精度が際立っているのだ。
難易度については正直、歯ごたえがある。ガンビットの組み合わせ次第では詰みを感じる場面もあるし、AIの動きが読みにくい瞬間も存在する。実際、Steamレビューでは「ガンビットのコスパが悪い」「運に左右されすぎる」という批判的な声も少なくない。それでも「面白い組み合わせが見つかったときの爆発力」が勝っている、というのが筆者の結論だ。
1試合が短い。だから止まらない
本作最大の中毒性は「1試合の短さ」にある。1ランが20~30分程度で決着する。長すぎず短すぎない。レビュアーの中には「3時間で11ランやった」という記述もある。これはゲームのペースが優れた設計になっている証拠だ。
負けてもリスタートが簡単で、ボタン長押しだけで即座に新しいランが始まる。これほど「もう1回」が自然に続く構造は、Balatoや他のデッキビルドローグライクに匹敵する。実際、コミュニティではリリース直後から「チェスのBalatro」という比較が広まった。この呼び名は的を射ている。

日本語対応もある。チェス特有の用語はそのまま使われるが、システム説明は十分読み解ける範囲だ。チェスの基礎知識があれば、より楽しめるのは間違いないが、なければないで覚えながら進める楽しさがある。
75%という現在のSteam評価はやや低く見えるが、デモ版の89%という数字が本来のポテンシャルを示している。バランス面のアップデートが進めば評価が上がるだろうという期待感を持って遊べる作品だ。
基本情報
開発: Blukulélé(Paul Giovannini)
販売: Sidekick Publishing、Stray Fawn Publishing
リリース日: 2026年5月1日
価格: 1,500円
プラットフォーム: Windows、macOS、Linux、iOS、Android
プレイ人数: 1人 言語: 日本語、英語、フランス語、ドイツ語 他11言語対応
ジャンル: チェスローグライク、デッキビルダー、ターン制ストラテジー
Steam評価: 概ねポジティブ(994件中75%が好評)
購入リンク
Steam: https://store.steampowered.com/app/3509230/Gambonanza/
公式リンク
X (Twitter):https://x.com/Blukulele
Discord: https://discord.gg/H3FbvFN2sE


