時間が足りない!ブラジル史上最も暗い虐殺事件を題材にした傑作、 7分間で地獄を駆け抜ける”ExileLike”ローグARPG『Hell Clock』

更新: 2025年8月2日
時間が足りない!ブラジル史上最も暗い虐殺事件を題材にした傑作、 7分間で地獄を駆け抜ける”ExileLike”ローグARPG『Hell Clock』

Path of Exileライクなビルド構築×時間制限ローグライク=究極のアドレナリン体験

筆者は昔から事あるごとに、

「もっとも好きなゲームジャンルは、圧倒的にハック&スラッシュ!!!」

と公言してきた人間だ。だからこそ、2025年7月22日にRogue SnailがSteamで配信開始した『Hell Clock』には、発売前から相当な期待を寄せていた。

ブラジルの歴史上最も悲劇的な事件の一つ「カヌードス戦争(1896年)」を題材に、25,000人が虐殺されたその史実をダークファンタジーとして昇華させた本作。それだけでも十分にユニークだが、注目すべきはその革新的なゲームシステムにある。

7分間の時間制限付きローグライクARPG──この一行だけで、どれだけクレイジーな体験が待っているか想像がつくだろうか?

開発者自ら「人生を支配しない」ことを宣言したゲーム設計

本作を手がけたRogue Snailは、これまでカラフルで可愛らしい作品を制作してきたブラジルのインディーデベロッパー。しかし『Hell Clock』では、自国の歴史と向き合う姿勢を貫き、全く異なるトーンの作品に挑戦している。

開発チームが目指したのは「生活の一部になるゲーム」ではなく、むしろその逆。Rock Paper Shotgunのレビューが秀逸に表現している通り、本作は「人生を支配したがらない」ゲームなのだ。

1回のランが7分で終わる設計は、まさにその哲学の体現だ。ボス戦や特定のイベント中は時間が停止するものの、基本的には常にタイマーが刻々と減り続ける。この緊張感は、他のローグライクでは味わえない独特のアドレナリン体験を生み出している。

「リラックスモード」でタイマーを無効化することも可能だが、それでは本作の真の魅力を味わい損ねることになるだろう。時間という絶対的制約があるからこそ、戦利品を求めて深部へ潜るリスクと、確実に脱出するための判断が重要になる。

ブラジル史上最悪の虐殺を、なぜゲームで描くのか

19世紀末のブラジル。共和制に移行したばかりの新政府に対し、宗教指導者アントニオ・コンセリェイロ(作中では「助言者」)が率いるカヌードス共同体が抵抗を続けていた。この対立が最終的に政府軍による大規模な攻撃に発展し、25,000人もの住民が虐殺された──これが「カヌードス戦争」の史実だ。

プレイヤーは戦士パジェウとなり、師である助言者の魂を救うために地獄と化したカヌードスに何度も降り立つ。死ぬたびに時間が歪み、パジェウの力は増していく。そして師の首を奪い、その魂を閉じ込めた闇の軍勢との最終決戦に挑むのだ。

ブラジルポルトガル語の音声で語られる物語は、英語版よりも遥かに感情的で訴えかけるものがある。開発者たちの「自分たちの歴史を正しく伝えたい」という想いが、プレイヤーの心に直接響く。これは単なるゲームではなく、忘れ去られた人々への鎮魂歌なのだ。

Path of Exileを超える? 圧倒的なビルド構築の自由度

本作の開発者は自ら「Exile-Like」と称している通り、『Path of Exile』からの影響を隠していない。しかし、実際にプレイしてみると、その進化は驚くべきものだった。

膨大なスキルツリーでは、基本的なステータス強化から、時間延長、フロアスキップといったゲーム進行に直結する能力まで習得可能。聖遺物(Relics)システムでは、テトリスのような限定スペースに様々な効果を持つアイテムを配置し、それらの組み合わせでシナジーを生み出していく。

筆者が特に気に入ったビルドは「召喚特化構成」だ。単体では弱い召喚スキルに、「アクティブ召喚1体につき呪文ダメージ増加」の聖遺物と、「別の呪文使用時に追加召喚を生成」する聖遺物を組み合わせることで、画面を埋め尽くす召喚軍団を展開できる。

このビルド構築の奥深さは『Path of Exile』に匹敵、あるいはそれを超えるかもしれない。しかも7分という制限時間があることで、理論値追求だけでなく、実戦での判断力も同時に問われる設計になっている。

プレイヤーファーストの開発姿勢が光る追加モード

本作の素晴らしい点の一つが、開発チームの柔軟な対応だ。リリース後わずか数日で、プレイヤーからのフィードバックを基に「Vengeance Mode(復讐モード)」が実装された。

このモードでは、失敗するたびに与ダメージが増加し、被ダメージが減少する。ジャンル初心者や、ビルド構築よりも戦闘を楽しみたいプレイヤーのための配慮だ。既存の「リラックスモード」(時間制限無し)と合わせ、様々なプレイスタイルに対応している。

開発者の「これはあなたのゲームです」というメッセージが印象的だ。プレイヤーの要望に真摯に耳を傾け、ゲームをより良くしていこうとする姿勢は、小規模インディーチームならではの魅力と言えるだろう。

Steam Deckでも楽しめるが、最適化はこれから

Steam Deckでの動作も確認されているが、現時点では「Playable(プレイ可能)」評価に留まっている。平均30fps前後での動作となり、激しい戦闘シーンでは20fps台まで落ち込むことも。

フォントサイズの小ささも課題で、携帯モードでのテキスト視認性に問題がある。ただし、開発チームは「Steam Deck Verified」取得に向けて最適化を進めており、近いうちに改善される見込みだ。

バッテリー持続時間は約4時間と、このタイプのゲームとしては標準的。7分という短いセッション時間を考えれば、外出先でのプレイにも十分対応できるだろう。これからの開発陣の対応にも期待が高まる。

基本情報

タイトル: Hell Clock
ジャンル: ローグライクアクションRPG(Exile-Like)
開発元: Rogue Snail
パブリッシャー: Mad Mushroom
プラットフォーム: PC(Steam)
価格: 2,300円
プレイ人数: 1人
日本語対応: 完全対応(UI・テキスト)
リリース日: 2025年7月22日

主な特徴:

  • 7分間の時間制限システム
  • 3章構成キャンペーン(約42時間)
  • エンドゲーム「Ascension」モード搭載
  • 膨大なスキルツリー・聖遺物システム
  • リラックスモード・復讐モード対応
  • ブラジルポルトガル語・英語音声選択可能
  • Steam Deck対応(要最適化)

Steam: https://store.steampowered.com/app/1782460/Hell_Clock/
公式X: @HellClockGame

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