処刑ボタンを押したら負け。5日間の選択が良心を試す『イツカノヨル』

処刑ボタンを押したら負け。5日間の選択が良心を試す『イツカノヨル』

更新: 2026年3月4日

「押したら負け」──

目の前には赤い処刑ボタン。そしてわずか5日後に死刑執行が決まった竜族の少女。彼女が何か怪しい動きをしたら、危害を加えてきたら、いつでもこのボタンを押せばいい。即座に処刑が執行される。

PC(Steam)向けゲーム『イツカノヨル』は、こんな極限の状況から始まるマルチエンド方式のノベルゲームだ。2023年10月にUnityroomで公開され、総プレイ回数30万回以上を記録した話題作が、2026年1月29日、フルボイス化や新エンディング追加などの大幅パワーアップを遂げてSteamに登場した。

「いつでも押せる」という重圧

ゲームのルールはシンプルだ。プレイヤーは死刑囚となった竜族の少女・ミラの看守として、5日間を過ごす。村を焼き払ったという罪で捕らえられた彼女は、呪われた存在とされる竜族。安全のため、プレイヤーの目の前には常に「処刑ボタン」が置かれている。

このボタンは会話の途中だろうと、いつでも、何度でも押すことができる。少女が何か言いかけた瞬間に押してもいいし、最初から押してもいい。選択肢を選ぶ前に押してもいい。完全な自由がある。

しかし、この「いつでも押せる」という状況こそが、プレイヤーの良心を試してくる。最初は警戒心MAXで臨んだ筆者も、彼女との会話を重ねるうちに徐々に迷いが生じてきた。「本当に彼女は危険なのか?」「村を焼いたというのは本当なのか?」そして何より「この子を殺していいのか?」と。

1プレイ約5分の濃密な心理戦

本作の特徴は、1回のプレイ時間が約5分という短さにある。しかしこの5分間が、驚くほど濃密だ。ミラとの会話、選択肢の選択、そして処刑ボタンを「押す/押さない」「いつ押すか」という判断。これらすべてが物語の結末に影響を与える。

全13種類のエンディングは、プレイヤーの選択、好奇心、そして罪悪感によって分岐していく。例えば、会話の最中にボタンを押せばバッドエンド。しかし押さずに最後まで話を聞けばハッピーエンド……というほど単純ではない。中には「ハッピーエンドの直前」でもボタンを押せてしまうルートがあり、Steam コミュニティでは「これハッピーエンドの直前も死刑ボタン押せるのか…」という悲鳴にも似たコメントが寄せられていた。

筆者も初回プレイで、良かれと思って選んだ選択肢が予想外の展開を生み、思わず「えっ…?」と声が出た。選択肢には「竜族の象徴である角を折る」という痛ましいものまである。わくわくゲームズの公式Xアカウントでも「処刑ボタンを押したら負けといっても過言ではない」と明言されているが、まさにその通り。プレイヤーの良心が試される5分間なのだ。

Unityroomから進化したSteam版の魅力

Steam版は元となったUnityroom版から大幅にパワーアップしている。最も大きな変更点は、ミラ役に菜月なこさんを起用したフルボイス化だ。可愛らしい外見とは裏腹に、時折見せる諦めや悲しみを含んだ声色が、プレイヤーの罪悪感をより一層刺激してくる。

また、エンディングも追加され、それに伴うBGM、スチル、立ち絵差分が追加。Steam実績に対応し、ギャラリー機能も実装された。さらに英語、中国語(繁体字、簡体字)にも対応し、グローバル展開も視野に入れた完全版となっている。

操作は基本的にクリックのみ。コントローラー操作にも対応しているため、快適にプレイできる。短時間で周回しやすい設計も相まって、「もう一度別の選択肢を試してみよう」という気持ちにさせられる。気がつけば全エンディング制覇を目指して何度もプレイしていた。

「イツカノヨル」というタイトルの妙

本作のタイトル「イツカノヨル」は、カタカナ表記にすることで「5日の夜」と「何時かの夜」をかけた秀逸なネーミングだ。Unityroomのコメント欄でも「タイトルをカタカナで書くことで二重の意味を持たせるの天才すぎる」と絶賛されている。

英題は「5omeday」。こちらも「Someday(いつか)」と「5 day(5日)」を掛け合わせた遊び心あふれるタイトルになっている。

Steamレビューは91%の「非常に好評」

Steam版の評価は174件中91%が好評と、高い支持を得ている。「幸せになって欲しくてボタンをこれ以上押したくなくて7つエンディングで断念!キャラ可愛い」「全てのエンディングを回収するためにボタン押していると心が苦しくなる。でもハッピーエンドを観られてよかった」といったレビューからは、多くのプレイヤーがミラとの関係に感情移入していることが伝わってくる。

一方で「やばい、バッドエンドおもろすぎる❗️」「俺は6、9、7、8、4、10、1の順でぶち抜いた畜生です」といった、あえてバッドエンドを楽しむプレイヤーも。本作は「処刑ボタンを押すゲーム」ではないが、押した場合のルートも丁寧に作り込まれており、プレイヤーの良心を試しながらも、どんな選択にも物語が用意されている懐の深さがある。

心理ホラーとしての完成度

本作はビジュアルノベルでありながら、心理ホラーの要素も色濃い。直接的な暴力描写や出血表現はないものの、プレイヤー自身が「加害者」になりうる立場に置かれることで、独特の緊張感と罪悪感が生まれる。

「即処刑できるボタン」という設定は一見すると過激だが、実際には人間の道徳心や判断力を問う哲学的なテーマを内包している。「罪を犯した者は罰せられるべきか」「呪われた種族というだけで差別されていいのか」「命を奪う権利は誰にあるのか」──こうした問いに、プレイヤーは5分間で向き合うことになる。

基本情報

タイトル: イツカノヨル
開発元: Indigo Ingots, Starlit Chronicles Studio
パブリッシャー: Waku Waku Games
リリース日: 2026年1月28日(Steam)
プラットフォーム: PC(Steam)、Nintendo Switch(2026年春予定)
価格: 800円(税込)
プレイ時間: 1周約5分(全エンディング制覇には数時間)
対応言語: 日本語、英語、中国語(繁体字)、中国語(簡体字)
ジャンル: ビジュアルノベル、アドベンチャー、心理ホラー
Steam評価: 非常に好評(91%)
エンディング数: 13種類
声優: 菜月なこ(ミラ役)

クレジット

企画・シナリオ・プログラム: Indigo Ingots
アート: polaritia
サウンド: かずら’s MUSIC

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公式リンク

総評

『イツカノヨル』は、「処刑ボタン」という強烈なギミックを軸に、プレイヤーの良心と判断力を試す異色のビジュアルノベルだ。1プレイ約5分という短さながら、その5分間に詰め込まれた選択の重みと心理的緊張感は、他に類を見ない体験を提供してくれる。

フルボイス化されたミラの声、美しいゴシック調のビジュアル、そして13種類の多彩なエンディング。すべてが高いクオリティで仕上がっており、800円という価格は非常にリーズナブルだ。短時間で周回しやすい設計も素晴らしく、「次はどんな展開になるんだろう?」という好奇心が止まらない。

ただし、本作は万人向けではない。テーマが死刑や差別といった重いものであり、プレイヤー自身が加害者になりうる立場に置かれる。心理的な負担を感じる人もいるだろう。しかし、だからこそ本作は「ゲームでしか味わえない体験」を提供できている。

「処刑ボタンを押したら負け」──この一文の意味を、ぜひあなた自身の手で確かめてほしい。5日間の選択が、あなたの良心を試してくる。

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