
「ゲームでここまで手作り感を出す必要があるのか?」——スクリーンショットを初めて見たとき、筆者は真剣にそう思った。ダンボールを切り貼りしたような建物、12fpsのカクカクとしたアニメーション。どこかの美術学生が作ったショートフィルムと見間違えそうなそのビジュアルが、まさか4年以上をかけて磨き上げられた大作ゲームだとは。開発元は、あの『Machinarium』や『Samorost』で知られるAmanita Design。チェコの鬼才スタジオが、10年がかりで作り上げた渾身の一本が、ついに我々の前に姿を現した。

ダンボールで作られた全体主義国家、その恐ろしさ
物語の舞台となる「フォノポリス」は、文字通りダンボールと紙で構成された架空の都市だ。建物も、市民も、電柱も、すべてが手描きの紙細工でできている。この街を支配するのは「リーダー」と呼ばれる独裁者で、彼は街中に設置したアンプリオン(拡声器)を通じて絶え間なく音波コマンドを流し、市民の思考を操っている。働け、従え、考えるな——住民たちは自分の意思があると信じたまま、リーダーの命令に従い続けている。

主人公はフェリックスという名の青年ゴミ収集員。ある日、ヘッドフォンを手に入れたことで、彼だけがアンプリオンの洗脳から解放され、街の真実を目の当たりにする。リーダーが計画する「絶対音」——それが発動すれば、全市民が永遠に人形と化してしまう。誰にも信じてもらえないまま、フェリックスは一人で革命を起こさなければならない。
このストーリー、ただの「ディストピアもの」に留まらない。ジョージ・オーウェルやカフカを想起させる政治的な重さを持ちながら、Amanita Design特有のユーモアと温かみが随所に光る。市民たちはみんな少しおかしく、でもどこか愛おしい。笑いながらも、気づけば背筋が寒くなっている——そんな体験が連続する。
パズルはシーンそのものだ
本作のゲームプレイは、ポイント&クリック型のパズルアドベンチャーだ。しかし、ありきたりな「アイテムを拾って使う」ものとは次元が違う。各シーンは完全に独立した謎解き空間として設計されており、場面ごとに全く異なるルールと物理法則が待ち受ける。

あるシーンでは幾何学的な構造物を回転させて光の道を作り、別のシーンでは線路上のトロッコを適切な順序で走らせる。さらには、本作を通じて繰り返し登場するブロック崩しミニゲームも存在する。最初はシンプルなのに、終盤では驚くほど複雑な展開を見せるこのミニゲームが、不思議と本編の謎解きと同じくらい面白い。
前作の『Creaks』に近い感触、と評したレビュアーもいるが、それ以上にルーブ・ゴールドバーグ的な連鎖の快感がある。ひとつの要素を動かすことで次が動き、また次へ——パズルを解いた瞬間の気持ちよさが格別だ。難易度は全体的に高すぎず、詰まっても数分考えれば突破口が見えてくる程度のバランス。試行錯誤よりも「気づき」で解かせてくれる設計が心地よい。
10年以上かけてダンボールを切り続けた男たち

本作の最大の売りは、疑いなくそのアートスタイルだ。Amanita Designのスタッフたちは、実際に本物のダンボールを手で切り貼りし、手描きで彩色してゲーム内の3D素材を作り上げた。アニメーションは意図的に12fps(1秒12コマ)に設定されており、昔のコマ撮りアニメやチェコのクラシック人形劇を彷彿とさせる、独特のリズム感がある。
このこだわりはゲーム内の「メイキング映像」でも確認できる。タイトル画面からドキュメンタリーが視聴可能で、制作の過程を見ているだけで開発者たちの狂気に近い情熱が伝わってくる(YouTubeでも公開されている「Constructing Phonopolis」も必見だ)。
音楽もまた特筆すべきレベルで、作曲は『Machinarium』『Samorost 3』でも知られるTomáš Dvořák(Floex)が担当。ジャズ、クラシック、電子音楽が混ざり合った、どこにもない音世界がフォノポリスの空気を完成させている。さらに本作では、Amanita初の試みとして英語ナレーションが採用されており、ナレーターはミュージシャン/プロデューサーのジョー・アクセソンが担当。文学的なモノローグが、フェリックスの内面をリアルに浮かび上がらせる。

Steamレビューは現時点で「非常に好評」(93%、801件)を獲得。デモ版は公開当時に「圧倒的に好評」(99%)を叩き出すなど、プレイヤーからの評価は絶大だ。批評サイトMetacriticでも87点と高評価で、2026年の注目インディータイトルのひとつとして名を連ねている。
プレイ時間は概ね5〜6時間ほど。短すぎず、長すぎない。コンパクトにまとめられた体験として、この値段は間違いなく適正だ。日本語字幕にも対応しているので、英語が苦手でも安心してフェリックスの旅を楽しめる。
「いま」こそ見るべき物語

騒音で思考を奪い、従順な市民を作り上げようとするリーダー。声を上げる者を弾圧し、真実に気づいた者を孤立させるシステム。フォノポリスの話は、どこかで聞いたことがある気がしないだろうか。Amanita Designが10年以上かけてこの作品を作り続けた理由は、ゲームをプレイすることで自然と理解できるはずだ。
美しく、奇妙で、少し悲しい。そして確かに、希望がある。それが『Phonopolis』という作品だ。
基本情報
開発: Amanita Design
販売: Amanita Design
リリース日: 2026年5月20日
価格: 2,900円※ローンチ割引あり
プラットフォーム: Windows / macOS
プレイ人数: 1人(シングルプレイヤー)
言語: 日本語字幕対応(英語音声、18言語字幕)
ジャンル: パズルアドベンチャー / ポイント&クリック
Steam評価: 非常に好評(93% – 801件のレビュー)
購入リンク
Steam: https://store.steampowered.com/app/1206070/Phonopolis/
公式リンク
公式サイト: https://amanita-design.net/games/phonopolis.html
X (Twitter): https://x.com/amanita_design


