
まさか2Dアクションでここまで引き込まれるとは……
Steam で 98% という驚異的な高評価を誇る『Katana ZERO』。最初は「ただのスタイリッシュなアクションゲーム」程度に思っていたのだが、プレイしてみると一撃必殺の爽快感と謎に満ちた物語の組み合わせに完全にノックアウトされてしまった。
記憶を失った暗殺者となって、ネオンが煌めくディストピアで任務を遂行していく——表面的にはシンプルなこの設定が、プレイしているうちに深い心理スリラーへと変貌していく様は圧巻だった。

バスローブ姿の暗殺者? 一風変わった主人公に困惑
物語の主人公は「Zero(ゼロ)」と呼ばれる謎の暗殺者。なぜかバスローブ姿で、記憶の大部分を失っている。組織から派遣される精神科医とのカウンセリングを受け、謎の薬物を注射され、そして次々と暗殺任務を遂行していく——という、どこか異常な日常から物語は始まる。
最初は「なんでバスローブなんだ?」と笑いそうになったのだが、話が進むにつれてその異常さこそが本作の核心部分であることが分かってくる。Zeroの置かれた状況、彼を取り巻く環境、そして彼自身の正体すらも、すべてが計算され尽くした謎として提示されている。

一瞬で決着がつく、極限の緊張感
ゲーム性は見下ろし型の2Dアクション——と言いたいところだが、実際はサイドビューの美しいドット絵アクション。プレイヤーは主人公も敵も一撃で死ぬ極限の状況で、刀一本を武器に敵陣に突入していく。
このゲームの核心は「時間操作」だ。限られた時間だけスローモーションを発動でき、その間に敵の銃弾を刀で弾き返したり、一瞬の隙をついて敵に接近したりできる。成功すれば一撃で敵を斬り伏せる爽快感が待っているが、失敗すれば即座に死亡——この緊張感がたまらない。

特に印象的だったのは、各ステージクリア後に流れる「リプレイ映像」だ。プレイ中は慎重に、時には何度も死にながら進めたステージが、リプレイでは映画のアクションシーンのようにスタイリッシュに再生される。まるで自分がプロの殺し屋になったかのような錯覚に陥る、巧妙な演出だ。
パズルのような戦略性と、予測不能なストーリー展開
戦闘は一見すると反射神経勝負に見えるが、実際はパズルのような戦略性が重要になる。敵の配置、攻撃パターン、環境を利用した立ち回り——これらを組み合わせて最適解を見つけていく過程が非常に楽しい。
何度死んでも「今度はこうしてみよう」と思えるのは、各ステージがコンパクトで、リトライのストレスが少ないから。しかも死亡すること自体が物語上では「時間を巻き戻している」という設定になっているため、ゲーム的な要素とストーリーが巧妙に連携している。

そして、戦闘の合間に挿入される会話シーンが素晴らしい。選択肢によって相手の反応が変わるのはもちろん、時には会話を遮って一方的に去ることもできる。この「プレイヤーの性格が反映される」システムが、主人公Zeroというキャラクターをより深く理解するきっかけになった。
徐々に明かされる真実、そして衝撃のクライマックス
物語の最大の魅力は、最初はシンプルに見えた設定が、徐々に巨大な陰謀の一部であることが明らかになっていく構成だ。Zeroの過去、彼を操る組織の正体、そして謎の薬物の秘密——これらが少しずつ明かされていく過程は、まさにページターナー小説を読んでいるような感覚だった。
特に中盤以降、「現実と幻覚の境界」が曖昧になっていく演出は圧巻。画面がグリッチしたり、突然シーンが切り替わったりする表現によって、プレイヤー自身もZeroと同じ混乱を味わうことになる。

ただし、本作は4〜6時間程度でクリアできるボリュームで、しかもエンディングは明確な「続く」感じで終わる。この点については賛否が分かれるところだが、個人的には「これ以上ないほど濃密な体験」だったと感じている。無駄な要素を一切排除し、必要な要素だけを完璧に磨き上げた結果の短さだからだ。
VHS風エフェクトとシンセウェーブが作り出す唯一無二の世界観
視覚的・聴覚的な表現も本作の大きな魅力だ。80年代〜90年代のVHSテープを彷彿とさせるグリッチエフェクト、ネオンが映えるダークな街並み、そして全編を通して流れるシンセウェーブサウンドトラックが、独特の世界観を作り上げている。
特に音楽は素晴らしく、各ステージの楽曲がそのシーンの雰囲気を完璧に演出している。クラブでの戦闘シーンではテクノミュージックがバックグラウンドで流れ、静寂なアパートのシーンでは物悲しいアンビエント系の楽曲が流れる——こういった細部へのこだわりが、プレイヤーを物語により深く没入させてくれた。

短いが濃密、一生忘れられない体験
『Katana ZERO』は確かに短い作品だ。しかし、その短時間に込められた密度は尋常ではない。一撃必殺の緊張感、謎に満ちたストーリー、圧倒的なビジュアルと音楽、そしてプレイヤー自身の選択が反映されるキャラクター性——これらすべてが有機的に結合して、他に類を見ない体験を生み出している。
特に、アクションゲームでありながらここまで物語に引き込まれたのは久しぶりだった。戦闘の爽快感だけでなく、Zeroという人物の心境の変化、彼を取り巻く状況の異常さ、そして最後に待つ衝撃的な真実——これらが絶妙なバランスで組み合わされている。
続編となる無料DLCの開発も進行中とのことで、今から続きが楽しみで仕方がない。短時間で遊べて、しかも忘れられない体験を求めているゲーマーには、心からオススメしたい傑作だ。
基本情報
- ゲーム名: Katana ZERO
- 開発: Askiisoft
- 販売: Devolver Digital
- 配信日: 2019年4月18日
- 対応プラットフォーム: Steam, Nintendo Switch, Xbox One, PlayStation 4
- 価格: 1,700円(Steam)
- 日本語: 対応
- プレイ時間: 4-6時間
- ジャンル: 2Dアクション
- レーティング: 17歳以上対象(暴力・薬物使用)