美しくも過酷な宇宙の方舟で、小さなロボットが紡ぐ壮大な物語─『MIO: Memories in Orbit』

美しくも過酷な宇宙の方舟で、小さなロボットが紡ぐ壮大な物語─『MIO: Memories in Orbit』

更新: 2026年3月25日

「また、よくあるHollow Knightのフォロワーか」 正直に白状しよう。フランスのDouze Dixièmesが放った本作のトレイラーを見たとき、僕はそう思って斜に構えていた。だが、朽ちゆく宇宙船「Vessel」に足を踏み入れて数時間、僕は自分の浅はかさを呪うことになった。

2026年1月20日にリリースされ、またたく間にSteamで85%の高評価を叩き出した『MIO』。これは単なる模倣作ではない。圧倒的な「テクノ・マジック」のアートスタイルと、プレイヤーの甘えを一切許さない骨太な設計が融合した、新たな時代の傑作だった。

崩壊寸前の宇宙船「Vessel」という舞台

物語の舞台は「Vessel(ヴェッセル)」と呼ばれる巨大な宇宙船。かつては何千もの生命を運ぶ方舟として機能していたこの船は、今や制御不能の植物と暴走した機械に覆われた廃墟と化している。

プレイヤーが操作するのは、MIOという名の小さなアンドロイド。記憶を失った彼女が目覚めたとき、Vesselは完全なシャットダウンまで残りわずかという状態だった。船を管理していた5つのAI「Pearl(パール)」──The Eye、The Spine、The Blood、The Hand、The Breath──は機能を停止し、船の住人たちは絶望に沈んでいる。

MIOの使命は明確だ。5つのPearlを再起動させ、Vesselに何が起きたのかを解明し、船と残された住人たちを救うこと。だが、その道のりは想像を絶するほど過酷なものとなる。

「テクノ・マジック」が生み出す圧倒的な世界観

本作を語る上で避けて通れないのが、その圧倒的なビジュアルだ。開発チームは自らのアートスタイルを「テクノ・マジック」と呼んでいる。SF的な宇宙船という設定でありながら、そこには魔法のような幻想性が息づいている。

氷に閉ざされた都市エリア、紫色の植物が生い茂るジャングル、アズールブルーに輝く機械の庭園──各エリアは水彩画のような柔らかなタッチで描かれており、まるで絵本の中を冒険しているかのような感覚を覚える。コミック、絵画、そして日本のアニメーション(特に宮崎駿作品)からインスピレーションを受けたというビジュアルは、フレーム単位で美しく、スクリーンショットを撮る手が止まらなくなるほどだ。

開発チームの共同創設者であるSarah Hourcade氏は、「最初はSFの世界を作りたかったのですが、制約から解放されるうちに、こうした形になりました」と語っている。手描きのような温かみと、機械的な冷たさが共存するこのアートスタイルこそが、『MIO』最大の武器のひとつだろう。

サウンドトラックが紡ぐ孤独と希望

ビジュアルと並んで特筆すべきなのが、独創的なサウンドトラックだ。Lo-fiビート、アンビエント、そして聖歌隊のコーラスが絶妙にブレンドされた楽曲は、Vesselという朽ちゆく世界の孤独感と、それでもなお灯り続ける希望の光を見事に表現している。

静かなエリアでは心を落ち着かせるような優しいメロディが流れ、ボス戦では緊張感を煽る重厚な音楽へと切り替わる。特に印象的なのは、コーラスパートだ。人の声が持つ感情の豊かさが、ロボットたちの世界に人間味を与えている。

音楽を手がけたチームは、「船に残された記憶と感情を音で表現したかった」と述べており、その意図は見事に実現されている。プレイ中、筆者は何度もその場に立ち止まり、ただ音楽に耳を傾けた。

移動と探索の喜びを追求したゲームデザイン

『MIO』の開発チームが最初に決めたのは、「高速フックショットで画面を一瞬で横切る」という移動システムだった。実際、このゲームの移動システムは極めて気持ちいい。

MIOは最初からダブルジャンプが使える。これは多くのメトロイドヴァニアでは終盤に解放される能力だが、本作では序盤から与えられる。さらにゲームを進めると、壁登り、グライディング、フックショット、そしてスパイダーのような壁張り付きなど、多彩な移動手段を獲得していく。

これらの能力を組み合わせることで、Vesselの複雑に入り組んだ構造を縦横無尽に駆け巡ることができる。空中でのダッシュ、壁を蹴ってのジャンプ、フックショットでの急加速──一度慣れると、まるでパルクールのように優雅に移動できるようになる。

探索においても、本作は独自の哲学を持っている。ゲーム序盤、プレイヤーはマップを持たない。特定のNPCに会うことで初めてマップ機能が解放されるのだが、それまでは自分の記憶と環境認識だけを頼りに進まなければならない。

開発チームのOscar Blumberg氏は「プレイヤーに探索し、テストし、迷いながらも道を見つけてほしかった」と語る。実際、筆者は最初の数時間、何度も同じ場所をぐるぐる回った。だが、それが苦痛ではなかったのは、環境デザインが非常に優れていたからだ。

各エリアには明確な視覚的特徴があり、ランドマークとなる建造物や独特の色彩によって、自然と頭の中に地図が形成されていく。そして、マップを手に入れた瞬間の「ああ、ここはこう繋がっていたのか!」という発見の喜びは格別だった。

プレイヤーを試す、妥協なき難易度設計

『MIO: Memories in Orbit』は、はっきり言って難しい。Game Informerのレビュアーは「母親の前では言えないような言葉で表現される難易度」と評したほどだ。

本作の難易度を特徴づけるのは、以下の要素だ:

長いリスポーン距離:セーブポイント(Overseer)は少なく、死ぬと遠くから再スタートとなる。序盤は特にセーブポイントが1つしかないため、ボスに辿り着くまでの道のりを何度も繰り返すことになる。

体力の段階的減少:最も物議を醸しているのがこのシステムだ。ストーリーの進行に伴い、「Heart’s Tremor(心臓の震え)」というイベントが発生し、MIOの最大HPが永久に1つ減少する。苦労して手に入れた体力アップグレードが、物語の都合で奪われるのだ。

厳しい通貨システム:敵を倒すと「Nacre(真珠層)」という通貨を得られるが、死ぬとすべて失う。他のゲームのように死亡地点で回収できるわけではなく、完全に消失する。ただし、マップ上の特定の機械で「結晶化」することで保護できる。

こうした要素は、確かに人を選ぶ。実際、Steamのレビューでは「QoL(Quality of Life)アップデートが必要」という声も見られる。

しかし、筆者はこの難易度設計に意図を感じた。本作は「パワーファンタジー」ではない。MIOは最後まで小さく、脆く、か弱いままだ。プレイヤーは強くなるのではなく、上手くなる。それこそが本作の目指したものなのだろう。

Steamの高評価レビューでは、「この難易度に文句を言う人は期待値を間違えている。これは万人向けのゲームではない。開発者のビジョンを信じてほしい」という意見も多く見られた。

実際、本作にはアクセシビリティオプションも用意されている。「Eroded Bosses(侵食されたボス)」を有効にすると、死ぬたびにボスのHPが少しずつ減少する。「Pacifist(平和主義者)」モードでは、プレイヤーが攻撃するまで敵が襲ってこない。「Ground Healing(地面治癒)」では、5秒間地面に触れ続けると少しずつ回復する。

これらのオプションを使うことに恥じる必要はない。筆者も最終ボスで「Eroded Bosses」のお世話になった。大事なのは、自分が楽しめる形でゲームをプレイすることだ。

コンバットは簡潔、だがボス戦は熱い

戦闘システムは比較的シンプルだ。MIOは3連続攻撃のコンボ、ダッシュ攻撃、そして回避を持っている。これにフックショットを組み合わせることで、空中を飛び回りながら敵を攻撃する立体的な戦闘が展開される。

正直なところ、雑魚敵との戦闘は単調になりがちだ。攻撃パターンが少なく、繰り返しプレイすると作業感が出てくる。だが、ボス戦は別格だ。

各ボスは独自の攻撃パターンと戦闘エリアを持ち、MIOの移動能力をフル活用することが求められる。ドリルで地面を掘り進む巨大モグラ、レーザーガンを振り回す機械人形、空中を飛び回る巨大な蝿──どのボスも視覚的に印象的で、倒したときの達成感は格別だ。

筆者が特に感銘を受けたのは、ボスの攻撃が「覚えゲー」として成立している点だ。何度も挑戦することで攻撃パターンを学び、回避のタイミングを体で覚え、ついに倒したときの爽快感。これこそが『Dark Souls』系譜のゲームが提供する喜びであり、本作はそれをメトロイドヴァニアの文脈で見事に再現している。

アップグレードシステム「Modifier」の奥深さ

本作のキャラクタービルドは「Modifier(モディファイア)」と呼ばれるシステムで管理される。これは一種のパッシブスキルで、装備することでMIOの性能を変化させる。

例えば:

  • 「Hand’s Greed(手の貪欲)」:すべてのダメージがクリティカルになるが、クリティカル威力が60%減少
  • 「Flowing Striders(流れる歩行者)」:追加の体力を得る代わりに、コンボ攻撃力が低下
  • その他、ドロップ率上昇、スタミナ回復速度向上など多数

Modifierは敵からのドロップや、Vesselの各所に隠されたコアを集めることで入手できる。装備スロットには限りがあるため、どのModifierを選ぶかがプレイスタイルを大きく左右する。

しかし一部のレビューでは、「実験する余地が少なく、早い段階で最適解を見つけてしまう」という指摘もある。確かに、Modifierの種類はもう少し多くてもよかったかもしれない。それでも、自分だけのビルドを考える楽しみは確かに存在する。

隠された秘密とトゥルーエンディング

『MIO』は一周12〜14時間でクリアできる──と開発チームは述べていた。だが、それは最初のエンディングまでの話だ。

本作には複数のエンディングがあり、「トゥルーエンディング」に到達するには、Vesselの隅々まで探索し、隠された秘密エリアを見つけ出す必要がある。

Game Fileのレビュアーは、「12〜14時間でクリアできると聞いて笑った。なぜなら自分は既に15〜20時間プレイしていたし、まだ終わりが見えなかったからだ。結局、最初のエンディングまで30時間、トゥルーエンディングまで44時間かかった」と語っている。

彼のテキストには、本作の探索の魅力が凝縮されている:

「困難なプラットフォームエリアを抜けると、精巧な秘密エリアを見つけた。そのエリアはさらに別のクールなエリアにつながっていて、そのエリアはまた別の興味深い場所に続いていた。まるでポケットから次々と20ドル札が出てくるような感覚だ」

本作のマップの約35%は完全にオプショナルだという。ストーリーのクリアには不要だが、そこには追加のロア(世界観設定)、強力なアイテム、そして印象的なボス戦が待っている。

筆者はまだトゥルーエンディングには到達していないが、探索の手を止めるつもりはない。次の部屋の向こうに何があるのか──その好奇心が、プレイを続ける原動力になっている。

フランスのインディーシーンから生まれた傑作

Douze Dixièmesは、パリ郊外に拠点を置く小さなインディースタジオだ。彼らの前作『Shady Part of Me』は、光と影をテーマにしたパズルゲームとして批評家から高評価を受けたが、商業的には大きな成功とは言えなかった。

「同じパズルゲームを4年間作り続けるのは疲れる」とSarah Hourcade氏は語る。チームは新しい挑戦を求め、メトロイドヴァニアというジャンルに挑戦することを決めた。

しかし、彼らは既存のゲームエンジンを使うのではなく、独自のゲームエンジンを一から構築するという大胆な選択をした。『Shady Part of Me』で使用したエンジンのコードの80%以上を破棄し、『MIO』のために最適化された新しいエンジンを作り上げたのだ。

「チームに2人、ゲームエンジンを作りたい開発者がいたので、作りました」とHourcade氏は軽く言うが、その裏には膨大な労力があったはずだ。

開発において最も困難だったのは戦闘システムだったという。「プレイヤーに感じてほしい感覚にフィットするシステムとデザインを見つけるのに、非常に苦労しました」とチームは振り返る。

だが、その努力は報われた。リリース直後から高評価を獲得し、Polygonは「メトロイドヴァニアの技術を完璧に習得している」、GAMINGbibleは「2026年最初の大型作品かもしれない」、Destructoidは「絶対的な驚異」と10点満点中9点を付けた。

フランスのインディーゲームシーンは近年、『Prince of Persia: The Lost Crown』、『Clair Obscur: Expedition 33』など、国際的に高い評価を受ける作品を次々と生み出している。『MIO: Memories in Orbit』も、その系譜に連なる傑作と言えるだろう。

誰に勧めるべきか?

正直に言おう。『MIO: Memories in Orbit』は万人向けのゲームではない。

高難易度を求めるプレイヤー、探索に何十時間も費やすことを厭わない人、美しいビジュアルとアートに価値を見出す人──そういったプレイヤーには心からオススメできる。

一方で、気軽に遊べるメトロイドヴァニアを求めている人、難易度の高いゲームが苦手な人、長いリスポーン距離にストレスを感じる人には、正直なところ勧めにくい。

Game Informerのレビュアーは、「多くの素晴らしいゲームでは、私は屋上から叫んでできるだけ多くの人にプレイしてほしいと思う。『MIO』も心から楽しんだが、経験豊富なプレイヤー以外には推奨を躊躇する」と述べている。

だが同時に、「もしそういうものが心をときめかせるなら、『MIO』は絶対にプレイすべきリストの上位に来るべきだ」とも語っている。

筆者も同感だ。このゲームは挑戦的で、時に不公平にすら感じられるかもしれない。だが、その先にある達成感、発見の喜び、そして美しい物語は、努力に見合う価値がある。

2026年、インディーゲームシーンは幕開けから熱い。そして『MIO: Memories in Orbit』は、間違いなくその筆頭に立つ作品のひとつだ。

もしあなたが、小さなロボットとともに朽ちゆく宇宙船の謎を解き明かす覚悟があるなら──Vesselは、あなたを待っている。


基本情報

開発: Douze Dixièmes
販売: Focus Entertainment
リリース日: 2026年1月20日
価格2,300円(通常価格)※セール時は20%オフで1,840円
プラットフォーム: PC (Steam)、PlayStation 5、Xbox Series X/S、Nintendo Switch、Nintendo Switch 2
プレイ人数: 1人
言語: 日本語、英語、フランス語、その他14言語に対応
ジャンル: メトロイドヴァニア、アクションアドベンチャー、プラットフォーマー
Steam評価: 非常に好評(85% – 1,093件のレビュー)

購入リンク

Steam: https://store.steampowered.com/app/1672810/MIO_Memories_in_Orbit/

公式リンク

公式サイト: https://community.focus-entmt.com/focus-entertainment/mio-memories-in-orbit?utm_source=Steam&utm_medium=StorePage_MIO&utm_campaign=Organic
X (Twitter): https://x.com/Focus_Entmt
Discord: https://discord.gg/focusentmt

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