『Mixtape』レビュー:これはゲームか、それとも“体験”か? 1990年代のカリフォルニアに迷い込む、至高のナラティブADV

『Mixtape』レビュー:これはゲームか、それとも“体験”か? 1990年代のカリフォルニアに迷い込む、至高のナラティブADV

更新: 2026年5月12日

 「ゲームって、もっと激しくなきゃダメなの?」そう思ったことはないだろうか。筆者は正直、あった。でも『Mixtape』をプレイして、その考えは完全に吹き飛んだ。音楽と青春と、どうしようもない切なさが詰まったこのゲームは、間違いなく2026年のインディーシーンに刻まれる一作だ。

ウォークマンが紡ぐ、最後の夜の物語

 舞台は1990年代のカリフォルニア州、架空の田舎町「ブルームーンラグーン」。主人公のステイシー・ロックフォードは、幼い頃から音楽スーパーバイザーになることを夢見てきた女の子で、ニューヨークへ旅立つ前夜、親友のヴァン・スレイターとカサンドラ・モリノとともに最後の夜を過ごすことになる。

 本作のユニークなところは、その夜のBGMとして流れる「ミックステープ」が単なる音楽以上の役割を果たす点だ。ステイシーが精魂込めて作ったカセットテープの曲順に沿って、物語はフラッシュバックと現実を行き来しながら展開していく。DEVOにジョイ・ディヴィジョン、スマッシング・パンプキンズ、ザ・キュア……往年のオルタナ・ニューウェーブの名曲たちが次々と流れるたびに、三人の過去が断片的に蘇る構成は、まるで自分の古いカセットテープを引っ張り出して聴いているような、甘くてほろ苦い感覚をもたらす。

「ゲームじゃない」と言わせない、ヴィネット形式の妙

 正直に言うと、本作を「ゲーム」として分類するのは難しい。Steamレビューでも「ゲームじゃなくてインタラクティブムービーだ」という声が少なくない。確かに、ゲームプレイの核は部屋を歩き回り、物に触れてフラッシュバックを引き出すという行為だ。しかし、そこで終わらないのが開発元Beethoven & Dinosaurの真骨頂である。

 各フラッシュバックには、それぞれ独自のミニゲームが用意されている。スケートボードで夜の街をクルーズしたり、夜間閉鎖の遊園地で写真を撮ったり、野球ボールを打ったり、バックシートから花火を打ち上げたり。ショッピングカートに泥酔した友達を乗せてヘリコプターから逃げるシーンは、あまりのカオスに筆者は思わず噴き出してしまった。そしてそのシーンが、ジョイ・ディヴィジョンの「Atmosphere」に乗って奇跡的なほど美しく締めくくられる。こういう瞬間のために、このゲームは存在している。

 各ヴィネットは一度きりのメカニクスを採用しており、同じゲームプレイが繰り返されることはほぼない。スケボーのあとは写真撮影、次は岩飛ばし……という具合に、常に新しいことが起きる。プレイ時間はおよそ3〜4時間だが、テンポが良いため冗長さは感じない。

The Artful Escapeを作ったスタジオが、また奇跡を起こした

 Beethoven & Dinosaurは、2021年にリリースしたBAFTA賞受賞作『The Artful Escape』で知られるメルボルン発のスタジオだ。あの作品も音楽と自己表現をテーマにした強烈な個性の持ち主だったが、本作はさらにスケールアップしている。

 ゲームディレクターのジョニー・ガルヴァトロンが語ったところによると、本作の発想は「好きな曲を並べてみたら、どんなストーリーが浮かぶか試してみた」という個人的な実験から生まれたという。その原体験がそのままゲームの根幹になっているからこそ、本作には作り物でない生々しい感情が宿っている。

 また、ビジュアル面でも圧倒的だ。Unreal Engineで構築されたグラフィックは、ストップモーションアニメを思わせる独特の質感を持ち、The Guardianは「スパイダーマン:スパイダーバース」との類似を指摘した。キャラクターの表情は細やかで、ステイシーが夜の深まりとともに少しずつ姿勢を変えていく描写など、細部への執着が随所に感じられる。

「ゲームか否か」より、「体験したか否か」

 リリース直後、Metacriticスコアは85点前後を記録し、IGNやVGCは満点評価を付けた一方、Steamには「ゲームではない」という批判的レビューも相当数寄せられている。確かにアクション要素はほぼなく、ゲームオーバーもなく、スキップできるミニゲームすら存在する。

 しかし筆者は思う。「これがゲームじゃないとしたら、何なんだ?」と。青春の一瞬一瞬を音楽に刻んで、それを手繰り寄せながら成長の痛みと向き合う体験——それをゲームという形式でしか届けられなかった理由が、プレイすれば必ず分かる。音楽とは「すること」じゃなくて「であること」だ、というゲームが最後に告げるメッセージは、プレイ後もしばらく耳に残り続ける。

 なお本作にはStreamerモードが存在しない。開発チームは「ライセンス音楽こそがMixtapeの魂」として、著作権フリー版の作成を一切拒否した。それほどまでに音楽への信念を貫いた作品である。


基本情報

開発: Beethoven & Dinosaur
販売: Annapurna Interactive
リリース日: 2026年5月7日
価格: 2,300円(-10%2,070円)
プラットフォーム: PC(Steam / Epic Games Store)、PlayStation 5、Xbox Series X|S、Nintendo Switch 2
プレイ人数: 1人
言語: 日本語対応
ジャンル: ナラティブアドベンチャー
Steam評価: 非常に好評(リリース直後・好評多数)


購入リンク

Steam: https://store.steampowered.com/app/2582320/Mixtape/


公式リンク

公式サイト: https://mixtape.game/
Annapurna Interactive: https://annapurnainteractive.com/games/mixtape

他の最新記事を見る

チェーンソーを持った女の子 vs 機械の軍勢――『MOTORSLICE』は動く喜びだけで成立している

チェーンソーを持った女の子 vs 機械の軍勢――『MOTORSLICE』は動く喜びだけで成立している

「パルクールゲームって、結局ただ走るだけでしょ?」 正直に言うと、筆者はそう思っていた。Mirror’s EdgeとかPrince of Persiaとか、名作と呼ばれる作品はいくつも知っているが、「とはいえ

パンチもキックもリズムに乗れ! バットマンを格闘技×音楽で再発明した衝撃作『Dead as Disco』

パンチもキックもリズムに乗れ! バットマンを格闘技×音楽で再発明した衝撃作『Dead as Disco』

このゲームを起動した瞬間、筆者は思った。「これ、格闘ゲームじゃないか?」と。チュートリアルでパンチを繰り出した瞬間、それが完全に音楽のビートに同期して決まる。あの感触——アーケードゲームの爽快感と、ライブ会場でドラムが体