チェーンソーを持った女の子 vs 機械の軍勢――『MOTORSLICE』は動く喜びだけで成立している

チェーンソーを持った女の子 vs 機械の軍勢――『MOTORSLICE』は動く喜びだけで成立している

更新: 2026年5月11日

「パルクールゲームって、結局ただ走るだけでしょ?」

正直に言うと、筆者はそう思っていた。Mirror’s EdgeとかPrince of Persiaとか、名作と呼ばれる作品はいくつも知っているが、「とはいえ移動ゲーじゃないの」という食わず嫌いが心のどこかに居座り続けていた。

ところが『MOTORSLICE』のデモをひとたび触れた瞬間、その偏見は粉砕された。チェーンソーを振り回す女の子が廃墟の巨大構造物を駆け回るこのゲーム、「動く」こと自体がすでに完成されたコンテンツになっている。2026年5月にリリースされてからSteamで「非常に好評」を獲得している理由が、プレイ5分で理解できてしまった。

チェーンソーがあれば壁だって越えられる

『MOTORSLICE』の舞台は、ブルータリスト建築様式が支配する荒廃した巨大構造物(メガストラクチャー)だ。プレイヤーが操るのは「スライサー」と呼ばれる職業の女の子「P」。彼女の仕事はいたってシンプル――この構造物に侵入し、上まで登り、機械をすべて破壊して脱出する。ルーティンワーク、らしい。

移動の基本はパルクール。走る、スライディング、しゃがみ、壁走り、スタント……と一般的なアクションゲームの移動手段がひと通り揃っているのだが、本作の最大の特色はチェーンソーを使ったトラバーサル(移動)だ。

チェーンソーを壁や天井に引っ掛けることで、通常では届かない距離を一気に跳び越えられる。文字で書くとシンプルだが、この感触がクセになる。うまく壁を「刻んで」足場にしたり、慣性を乗せて大ジャンプに繋げたりと、操作が上達するにつれて移動そのものがどんどん気持ちよくなっていく。Mirror’s Edgeに感化されて作られたゲームが数多くある中で、本作がひとつ頭を抜けているのはこのチェーンソーアクションの独自性にあると思う。

敵は機械、でもボスはモンスター級

戦闘は「先に動いた方が勝ち」の即死ゲームだ。公式の説明文にもある通り「You die easily, but you kill easily(すぐ死ぬが、すぐ殺せる)」という設計で、慎重にいくか攻めにいくか、一瞬の判断が生死を分ける。

雑魚の機械たちはそれぞれ固有の攻撃パターンを持ち、慣れれば捌けるようになっている。だが、複数の敵を同時に相手にするシーンでは難易度が跳ね上がる。ロックオンを保持するのに少々癖があり、「あっちを攻撃しようとしたのに違う方向に動いた」というもどかしさを感じる場面もあった。

そんな雑魚戦の煩雑さを吹き飛ばしてくれるのが、ボス戦だ。巨大なダンプトラック、超大型の建設機械――Shadow of the Colossus的な「大きな物を登って破壊する」体験がここで発揮される。Pの小ささとボスの巨大さのコントラストが視覚的に圧倒的で、「こんなの倒せるの?」という不安がパルクールで駆け登る達成感に変わる瞬間は、このゲームの最高の瞬間のひとつだ。

ブルータリストな廃墟と、DnBのサウンドトラック

世界観の作り込みも秀逸だ。打ちっぱなしのコンクリート、無機質な階段、広大な吹き抜け空間……ブルータリスト建築特有の「人間を圧迫するような壮大さ」が、ゲームのいたるところに満ちている。不思議と美しいリミナルスペース(どこか別の場所への通路のような、人気のない空間)の雰囲気も随所に感じられ、ただの廃墟なのに見とれてしまう場面が何度もあった。

さらにこの世界観を底上げしているのが、Pizza Hotlineによるサウンドトラック。DnB(ドラムンベース)とJungleを中心にした大気感のある音楽は、Pが壁を蹴って跳躍するリズムと絶妙にシンクロしている。音楽に乗せて流れるように移動できた瞬間の気持ちよさは、他のゲームではなかなか味わえないものだ。

語り口は淡々と、でもOrbie(オービー)が可愛い

ストーリーは最小限に留められている。Pがメガストラクチャーを登りながら感じる断片的な心情、そして彼女の相棒であるドローン「Orbie(オービー)」との静かな交流。深い謎や壮大な物語を期待すると拍子抜けするかもしれない。

ただ、このOrbie――ビープ音でしか話せないドローン――が妙に愛らしい。Pとの掛け合いは「言葉の少なさ」ゆえに温かみが滲んでいて、ストーリーの主役というよりは旅の空気感を作るのに欠かせない存在となっている。

声優はKira Buckland(英語圏のアニメファンにはおなじみの名前)が担当しており、PのキャラクターにもGame Passでも遊べることもあって、今後の話題性は高そうだ。

「やや粗いが、動くと楽しい」を理解して楽しむゲーム

率直に言えば、完璧なゲームではない。チェーンソーのラッチ(引っかかり)が狙い通りにいかない場面、複数戦闘時の煩雑なロックオン、一部「ここどう進むの?」と迷うオープンエリアの導線など、荒削りな部分はある。

それでも、「動く・登る・切る」という本作のコアループは非常によくできている。移動の快感、ボスを倒した達成感、廃墟とDnBが生む独特の空気。この3つが揃っているだけで、数時間をあっという間に溶かすだけの引力がある。

Mirror’s EdgeやShadow of the Colossusが好きなら、ぜひ触ってみてほしい。Steamにはデモも用意されているので、まず1時間だけ試してみることをオススメする。


基本情報

開発: Regular Studio

販売: Top Hat Studios, Inc.

リリース日: 2026年5月5日

価格: 1,800円(現在10%オフ 1,620円)

プラットフォーム: PC (Steam / GOG), PlayStation 5, Xbox Series X|S

プレイ人数: 1人

言語: 日本語対応(英語、ポルトガル語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、ロシア語、中国語(簡体・繁体)、韓国語)

ジャンル: アクション・アドベンチャー、パルクール

Steam評価: 非常に好評(91% – 584件のレビュー)


購入リンク

Steam: https://store.steampowered.com/app/2830030/MOTORSLICE/


公式リンク

X (Twitter): https://x.com/RegularStudio_

YouTube: https://www.youtube.com/@RegularStudio

Discord: https://discord.com/invite/pEd3TghTU2

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