
これが本当に「あと1回だけ……」の始まりだった
「よし、今度こそクリアしてやる」 そう意気込んで塔への挑戦を始めてから、気がつくと外はもう明け方。時計を見ると朝の6時……あれ?昨日の夜に「ちょっとだけ」プレイするつもりじゃなかったっけ?
こんな経験をした人は、きっと少なくないはずだ。PC(Steam)をはじめ、Nintendo Switch、PS4、Xbox One、さらにはiOSやAndroidまで、あらゆるプラットフォームで愛され続けているデッキ構築ローグライク『Slay the Spire』の魔力にかかった人たちなら。
2019年にMega Crit Gamesからリリースされた本作は、Steam上で97%という圧倒的な高評価を獲得し、「デッキ構築ローグライク」というジャンル自体を確立した記念すべき作品でもある。実際にプレイしてみると、その中毒性の高さは尋常じゃない。「簡単そうに見えて奥が深い」なんて月並みな表現では片付けられないほどの完成度を誇っている。
そんな本作の魅力を、ついつい徹夜してしまった筆者の体験も交えながら紹介していこう。

12枚のカードから始まる、無限の可能性
ゲームの基本ルールはいたってシンプル。プレイヤーは4人のキャラクター(アイアンクラッド、サイレント、ディフェクト、ウォッチャー)から1人を選び、12枚の基本的なカードデッキを持って謎の塔に挑む。
敵を倒すたびに新しいカードを1枚選んでデッキに追加し、強力なレリック(装身具)を獲得して、より強いデッキを構築していく。そして全3層+αからなる塔の頂上を目指すというもの。
「なんだ、カードゲームか……」と最初は軽く見ていた筆者だったが、実際にプレイしてみるとこれが大間違いだった。
最初のキャラクター、アイアンクラッドで挑戦してみたところ……1回目、あっさりと第1層のボスに敗北。「まあ、初回だしこんなもんでしょ」と軽く考えていたのだが、2回目も3回目も同じようにボスの前で散っていく。
そこで気づいたのが、このゲームの奥深さだった。ただ強いカードを集めればいいというわけではなく、カード同士の「シナジー」を考えなければならないのだ。

予想以上にハードコアな戦略性
例えば、アイアンクラッドの代表的な戦略の一つに「筋力ビルド」がある。筋力を上昇させるカードを軸に、その恩恵を受けるアタックカードを集めて大ダメージを叩き出すという構築だ。
一見単純に思えるが、実際にやってみると「筋力を上げる前に敵に倒されてしまう」「筋力は上がったけどアタックカードが引けない」「序盤の雑魚敵が倒せずにダメージを蓄積してしまう」といった問題にぶつかる。
そこで重要になってくるのが、デッキのバランス調整。攻撃カードだけでなく、防御用のスキルカード、継続的な効果を発揮するパワーカード、そして時には「カードを引く」「エネルギーを得る」といったドロー・加速効果まで考慮した精密な構築が求められる。
さらに厄介なのが、レリックの存在だ。例えば「カードを1枚多く引けるが、手札の上限が1枚減る」といった一長一短の効果を持つものや、「毒系カードの効果が倍増する」といった特定のビルドを大幅に強化するものまで、その種類は膨大。
運良く引いたレリックに合わせてデッキの方針を変更することもあれば、逆に今のデッキに合わないレリックは泣く泣く見送ることもある。この判断が実に悩ましくて楽しい。

「負けたら最初から」だからこそ燃える
本作最大の特徴は、ローグライクならではの「死んだら最初から」というシステム。どれだけ強力なデッキを構築しても、一度でも負けてしまえば塔の入り口からやり直しとなる。
最初はこのシステムに「せっかく強くなったのに……」と落胆していたが、プレイを重ねるうちにこれこそが本作の魅力だと気づいた。
なぜなら、毎回異なる展開が待っているからだ。前回は筋力ビルドで攻めたから、今度は毒ダメージで戦ってみよう。今回は序盤から高コストカードが多く出たから、エネルギー増加を狙ってみよう。といった具合に、その都度異なる戦略を模索することになる。
そして何より、前回の敗因を踏まえた新しいアプローチで挑めるのが楽しい。「あのボスには高火力が必要だから、今度はもっと攻撃的に構築してみよう」「前回はカードが多すぎて事故ったから、今度はデッキを薄く保とう」といった感じで、失敗が次への学びになる。

キャラクターごとに全く違う戦略性
4人のプレイアブルキャラクターは、それぞれが個性的な戦闘スタイルを持っている。
序盤におすすめなのは、シンプルで分かりやすいアイアンクラッド。筋力アップや体力回復など、直感的に理解しやすいカードが多い。一方のサイレントは、毒やシヴ(短剣)を駆使したトリッキーな戦術が得意。
ディフェクトは、オーブと呼ばれるエネルギー体を生成・活用するテクニカルなキャラクター。そして最後に追加されたウォッチャーは、「怒り」「冷静」「神性」という3つのスタンスを切り替える独特のシステムが特徴だ。
筆者が一番ハマったのはサイレント。毒ダメージをメインとした「毒ビルド」で遊んだときの快感は忘れられない。序盤は地味にチクチクと毒ダメージを蓄積させるだけなのだが、デッキが完成すると敵が行動する前に毒で倒してしまうほどの威力になる。
この「最初は弱いけど、完成すると圧倒的」という成長曲線がたまらなく気持ちいい。まさに「弱い者いじめ」から「圧倒的強者」への成り上がりを体験できるのだ。

Steam Deck でも快適。どこでも「もう1回」
本作の素晴らしい点の一つが、プラットフォームを選ばない遊びやすさ。特にSteam Deckでのプレイは快適で、電車や飛行機での移動中にもサクッと1プレイできる。
ターン制のカードバトルなので、途中でスリープにしても問題ないし、1プレイが1~2時間程度で完結するのも嬉しい。「ちょっと時間が空いたから、1回だけ……」が気づけば5回、6回とプレイしてしまうのは、もはや本作の宿命と言えるかもしれない。
また、本作には「デイリークライム」という日替わりチャレンジモードも用意されている。全世界のプレイヤーと同じ条件で挑戦し、スコアを競うモードで、これがまた絶妙に中毒性が高い。

「人生を変えたゲーム」と呼びたくなる完成度
正直に言って、筆者にとって『Slay the Spire』は「人生を変えたゲーム」の一つだ。このゲームに出会うまでは、カードゲーム系には全く興味がなかった。ところが本作をプレイしてからというもの、デッキ構築ローグライクというジャンルに完全にハマってしまった。
何がそんなに魅力的なのか。それは「頭を使う楽しさ」と「運要素のスリル」、そして「成長の実感」が絶妙にブレンドされているからだと思う。
毎回異なる展開、毎回異なる戦略、毎回異なる結果。でも確実に上達している手応えもある。負けても「次こそは……」と思える絶妙な難易度調整。これらすべてが組み合わさって、他では味わえない中毒性を生み出している。
現在はSteam、Nintendo Switch、PlayStation、Xbox、iOS、Androidと、ほぼ全てのプラットフォームでプレイ可能。価格も手頃なので、「ちょっと気になるな」と思った人はぜひ一度試してみてほしい。
ただし、覚悟しておいてほしいことが一つある。最初の1回をプレイしてしまったら、もう後戻りはできない。気がつけば何時間も、何十時間も、このゲームの虜になってしまうということを。
でも、それだけの価値はある。約束する。
基本情報
タイトル: Slay the Spire
開発: Mega Crit Games
販売: Mega Crit Games
プラットフォーム: Steam, Nintendo Switch, PlayStation 4, PlayStation 5, Xbox One, Xbox Series X/S, iOS, Android
プレイ時間: 1プレイ 1-2時間程度(無限にリプレイ可能)
難易度: 初心者向け~上級者向け(アセンション20段階)
Steam評価: 圧倒的に好評 (97%)
リリース日: 2019年1月23日(正式版)
価格:2,800円(Steam)
ゲームジャンル: デッキ構築ローグライク
日本語: 対応済み