
ドアを開けるか、開けないか……その選択が運命を決める
Steamで90%という驚異的な高評価を獲得している心理ホラーゲーム『Who’s at the door?』。一見すると「ドアに誰かが来ました、開けますか?」という単純な設定に見えるが、プレイしてみるとその奥深い恐怖体験に完全に心を奪われてしまった。
本作は記憶を失い、精神的な病気を患った主人公となって、狭いアパートメントで薬物療法を受けながら回復を目指すというもの。毎日決まった時間にドアをノックする訪問者から薬をもらうか、部屋に置かれた薬を飲むかの判断を8日間続けることで治療が完了する……はずなのだが、そう簡単にはいかない。

現実と幻覚を見極める緊張感
『Who’s at the door?』の核心は「何が現実で何が幻覚なのか」を見極めることにある。プレイヤーは一人称視点で狭いアパートの中を観察し、異常な現象が起きていないかを常にチェックしなければならない。
靴の位置が変わっていたり、水槽の魚が消えていたり、時には壁に血痕が浮かんでいたり……。これらの「間違い探し」的な要素は、最初は簡単に見つけられるが、ゲームが進むにつれて非常に巧妙になっていく。何度かプレイしているうちに「あれ? これは最初からこうだったっけ?」と自分の記憶すら疑うようになってくるのだ。

幻覚が見えている間はドアを開けてはいけない。室内に置かれた薬を飲んで、症状が治まるのを待つのが正解だ。しかし、幻覚が消えて部屋が正常な状態に戻ったなら、ドアを開けて訪問者から薬をもらえばいい。
この判断ミスをすると即座に「1日目」に戻されてしまう。そう、本作はタイムループもので、失敗するたびに最初からやり直しになるのだ。8日間を無事に乗り切れれば治療完了だが、そこに至るまでには何度も何度も1日目を繰り返すことになる。
20種類の幻覚が織りなす悪夢
本作には20種類もの異なる幻覚が用意されており、どれが現れるかは毎回ランダムだ。ある時は天井から血が垂れ落ち、ある時は家具が勝手に動き回る。グロテスクな来訪者が現れることもあれば、室内の物音が不穏に響くこともある。
特に秀逸なのは、これらの幻覚が段階的に現れることだ。最初は「あれ? 何か変だな」程度の違和感から始まり、徐々にエスカレートしていく。そしてピークに達した後、スッと元の静寂に戻る。この緩急のつけ方が絶妙で、プレイヤーの心理状態を見事にコントロールしている。

複数エンディングと隠された真実
『Who’s at the door?』の魅力は一度クリアしたら終わりではないところにある。本作には3つのメインエンディングが存在し、さらに隠されたドールピースを全て集めることで「真のエンディング」がアンロックされる。
各エンディングは主人公の精神状態や選択によって変化し、それぞれ異なる解釈を提示してくる。ある視点から見れば希望に満ちた物語に見えるが、別の角度から見ると非常に暗い結末を示唆している。この曖昧さこそが本作の心理ホラーとしての完成度を高めている要因だろう。
1990年代の懐かしいビジュアル
本作のグラフィックは意図的に1990年代のPCゲームを彷彿とさせる粗いテクスチャで描かれている。この レトロな見た目が、むしろ不気味さを演出する効果を生んでいる。現代の高精細なグラフィックでは表現しきれない、どこか頼りない現実感が精神的な不安定さを見事に表現している。
音響設計も素晴らしく、ドアをノックする音、室内に響く足音、微かな環境音など、すべてが計算し尽くされている。特に「コンコン」というドアノック音は、ゲームをプレイした後も頭から離れなくなるほど印象的だ。

短時間で完結する濃密な恐怖体験
プレイ時間は60~120分程度と短めだが、その分非常に濃密な体験を提供してくれる。長時間ダラダラとプレイするのではなく、集中した緊張状態を維持したまま一気に駆け抜ける構成になっているのが素晴らしい。
また、開発者のSKONEC Entertainmentは積極的にプレイヤーの声を聞き入れており、定期的なアップデートで不具合の修正や新要素の追加を行っている。コミュニティとの距離感も近く、SteamレビューやDiscordでのフィードバックに真摯に対応している姿勢も評価できる。

エンドレスモードで永続的な恐怖を
メインストーリーをクリアした後は「エンドレスモード」が楽しめる。こちらは文字通り永続的に続くサバイバルモードで、より多くの日数を生き延びることが目標となる。幻覚の出現パターンもより複雑になり、やり込み要素として十分機能している。
心理ホラーゲームとしては『8番出口』などと同じ系統に位置する本作だが、タイムループ要素と薬物療法というテーマを組み合わせることで、独自の恐怖体験を生み出している。価格も手頃で、ホラーゲーム初心者からベテランまで幅広く楽しめる作品だ。

現実と幻覚、記憶と忘却、治療と悪化……あらゆる境界線が曖昧になる『Who’s at the door?』は、プレイ後もしばらく心に残り続ける、真の意味での心理ホラー傑作だ。
基本情報
Who’s at the door?
- 開発: SKONEC Entertainment
- 販売: SKONEC Entertainment
- 配信日: 2025年7月リリース
- 定価: 580円(Steam)
- 日本語: 対応
- プラットフォーム: PC(Steam)